2012年12月5日水曜日

第4回空き地歌会(本編)野比益多の評

こんにちは。野比益多です。
スタッフが全員、評をアップしたという
プレッシャーをじわじわと感じまして。
選ばせていただいた5首だけ書いてみました。
全首とかムリです!根性なしですみません。。
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A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
まずリズムがよくて気になりました。気になって何度か読んでいるうちに、この一首の持つ、かなしみのようなものが感じられました。置屋という場所、寅の刻(午前4時あたり)という時間、マツコデラックスを想像させるマツコ、どれも世の中の王道であるとは言えない、端っこにあるものたち。世の中の端っこにいるからこそ、楽しく笑い転げて生きていく。そんな意味合いが感じられてよいなあと思いました。(こういうのって深読みになるんでしょうか?まだそのあたりの加減がよくわかっていません。。)

E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
窓を殴るという行為。実際にはあまりしないだろうなあと思います。その行為と「夢」という言葉が一緒に出て来ると、ちょっと昔の青春ドラマのようなかんじがしてしまうような。。でもこの歌の持つ切実さは、こういう道具立てだからこそにじみでてくるのかもしれません。結露した窓は、内側から殴っているのでしょう。壊してしまいたいくらい叶いそうにない夢に閉じ込められている主体。でも夢は壊れない、主体は閉じ込められたまま。「跡がつくだけ」というところに、逃げ出すこともできない絶望感が感じられます。いつか夢が叶って窓ではなく扉から出られますように。

F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
「真冬日の結び目きつく」という表現がおもしろいなあと思いました。歌会でもこの結び目が何かというのが話題になっていましたが、わたしはまず冬の冷たいキュッと締まった空気のことを思い浮かべました。寒さがきついということやバスというところから、冬の朝に、出勤などのためバスを待っているというところを想像し、寒さで気が引き締まって、いつもずっと頭から離れない君のことを少し忘れて、仕事もしくは考えなければならない日常のことに頭の中が集中しはじめたというふうに読みました。恋愛という非日常から寒さという現実で日常に引き戻される瞬間がよいなあと思いました。

P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
「結語あざやか」という言葉がおもしろいと思いました。別れた彼女から「夜」に来るメール。それはなにか用事があってしてくるメールではなく、もう少し感情がこもったもののような気がします。主体はメールが来たときに少しの期待を持ったのではないでしょうか?「結語あざやか」はいろいろな意味にとれると思いますが、この場合は、あざやかなまでに、さらりと未練なく終っているメールと読むほうが面白いような気がします。一首の中に言葉として直接に描かれているわけではないのに、主体の未練が表現されているようでよいと思いました。

Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
「まだ髪を結んだ私しか知らない君」が、君と主体の距離感を心地よく表現していてとてもよいと思いました。ただ歌会中も話されたことですが、「終電の灯りをあびる」の意味が曖昧なことが残念です。前半で二人の距離感というのを示しているので、後半ではその距離感がどうなったのか?という変化(もしくは停滞)をきちんと示したほうがよいと思われます。

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