2012年12月11日火曜日

第4回空き地歌会 スピンオフ 評9


9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟(さとうはな)5票


【浪江まき子 評】-----------------------------------------------------------------------------

初句二句の韻律が良いと思いました。また全体としてあねもね、妹、髪を結う、春…など甘めの言葉が並んでいますが、最後に場面設定を病室とすることで妹の穏やかではない状況、(読み手には病状などはわからないので)意味深さのある雰囲気に回収しているところを評価しとりました。
(個人的な話で評とは言えませんが)最初、「結」という題を与えられたとき、私も髪を結う景を詠みたかったのですがどうしても甘い感じ、もしくは女性性を強調するようなものばかりになってしまい、何か違うと諦めたので、こういう題の処理の仕方もあったか、と勉強になりました。



【たえなかすず 評】-------------------------------------------------------------------------

美しい歌。
「あねもね」のひらがな表記で優しさと、淡さを同時に表し
あねといもうとのの対比を生み出す。
“あね もね 束ね”
の「ね」の繰り返しが姉妹のたおやかさを表現していると思う。

姉である主体が妹の髪を結ってやる。かすかな情感がたちあがる瞬間である。
「姉妹の聖域」を感じさせて上手い。

病室の方がいいと思ったが病棟の方が詩情があるので良いだろう。

アネモネの花言葉は「はかない夢」「薄れ行く希望」とある。
姉の気遣い、姉妹愛がはかなくも美しい。

次点。
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
不穏で好きです。
靴ひもは結ばれておらず、歯車に……
と負の方向に思わせる点がうまいです。

【飯田彩乃 評】-----------------------------------------------------------------------------

Mたけさんではありませんが、妹短歌が好きです。好きなんです。…いや、そうではなくて。
花を扱うように、妹の髪にやさしくふれる。この歌がもつ優しい雰囲気に惹かれます。韻律もなめらかでしっとりしていますよね。
あねもねの「あね」と髪を結われている「妹」の対比もそれほど嫌味ではなく、すっと胸に落ちてきます。


【龍翔 評】---------------------------------------------------------------------------------

第4回空き地歌会スピンオフにご参加の皆さま。
初めまして。ご無沙汰しております。龍翔と申します。
僭越ながら、一首選一首評をさせていただきます。

とても素敵な短歌ばかりで迷いに迷いましたが、
9の短歌にコメントさせていただきます。

直観的に、姉妹を詠んだ御歌だと思いました。
「あねもね」の「あね(姉)」という言葉の響きからかもしれません。
或いは、「アネモネ」とカタカナ表記にせず、ひらがな表記であることで、
視覚的にそう「感じさせられる」のかもしれません。

作中主体が姉にせよ、兄にせよ、
年上のきょうだいが、妹が痛い思いをしないようにと慮ってか、
「髪ゆるく結う」ところに、何とも言えない優しさを感じます。

「あねもね」、「ゆるく」などのいうひらがな表記は、
それ自体「あねもねを束ねるよう」な円みがあり、
加えて「ゆるく結う」という「ゆ」の音の連続が、
短歌全体から優しさや温かさを醸し出しています。
まさに、春の雰囲気とも合っていると思います。

「病棟」という表現から、病院の情景であることが分かります。
入院している妹の髪を姉が結んでいる風景なのか、
或いはその逆で、妹はお見舞いに来ているのか、
実は、二人ともが誰かのお見舞いで、病院で戯れているところなのか、
残念ながら、短歌の中からその詳細を読み取ることはできませんが、
そのようなストーリーをすることにこそ楽しさがあるのだとも言えます。
(私の印象としては、前者のイメージが強いかもしれません。
入院で辛く寂しい、痛い思いをしている妹に、
これ以上そのような思いをさせまいとする姉の気遣いを感じました。皆さまは如何でしょうか。)

深読みになりますが、以前ピカソの代表作〈ゲルニカ〉について聴いたことを思い出しました。
スペイン内戦の惨事を描いたこの絵画の中央下部には、
「再生」と「希望」の象徴として、アネモネの花が描かれています。
春を告げる「あねもね」とは、病床に伏せる妹の姿そのものなのかもしれません。

非常に優しさに溢れる素敵な御歌だと思います。長々と失礼致しました。

追記。空き地歌会のように、五首を選歌するとすれば、
9、19、23、25、30に投票させていただきたいと思います。

【魚住蓮奈 評】---------------------------------------------------------------------------------

春の明るさがよくでてます。あねもね、のかな表記、ゆるく、のやさしさがいい。ね、や ゆ、の音の繋がりのせいでしょうか、全体のゆったりとした時間の流れを感じさせます。




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