2012年12月11日火曜日
第4回空き地歌会 スピンオフ 評3&4&8
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春(Tetsu)2票
【麦太朗 評】------------------------------------------------------------------------------
長く付き合ってきた友達でも、その人の芯の部分はわからないものです。これ
は恋人同士でも、さらには夫婦でも同じことが言えます。部室を掃除するときは、
ほとんどの場合は二人が同じ空間にいてもそれぞれ違う作業をしているものです。
具体的な行動の描写によって二人の微妙な関係がうまく表現されています。
卒業と掃除があれば春は不要という気もします。また、結局はという言葉は硬
い感じがするので他の言葉への置き換えも考えられます。抒情あふれる素敵な歌
ですが推敲の余地はあると思います。
【田中ましろ 評】-------------------------------------------------------------------------
部室を掃除する、という表現がすごく新鮮でした。ぱっと見たときに相聞かと思
ったのですが、男女で部室が同じということはあまりないかなぁ、ということで
同性、友達の歌として読みました。希望的観測で作中主体は女子で。隠し事をし
ていて後ろめたい気持ちのある女友達と二人きりの空間。たとえば、友達の好き
な人が内緒で付き合ってる自分の彼氏とか。「結局は」に少なからず友達に事実
を打ち明けるかどうか葛藤した痕跡があり、でも結果、伝えていないことがわか
る。それが気まずさを増幅するのに非常に良く機能しているように感じました。
そんな人とおしゃべりではなく「部室を掃除する」わけです。それぞれ別のとこ
ろを片付けに集中したら沈黙にもなるでしょう。同じ空間でそれぞれ別のことを
することで主体の意識が自分に向いていて、胸の内にある気まずさに読者の意識
を引っ張ってきます。計算されたものかはわかりませんが、ひとつひとつの言葉
が絶妙に機能しあって圧倒的に心にきました。ただ1点、最後の春はちょっと違
和感がありました。卒業式って3月上~中旬なことが多くありませんか?だとし
たら春と呼ぶにはまだ少し早いのかなぁ、と。
余談ですが、この歌では相手が同性か異性かの情報がなにもありませんので、登
場人物をすべて男性にすることも可能ですね。そうすると、あら不思議、立派な
BL短歌に。読者の好みで設定を変えても核となる「主体の気まずさ」は変わらな
いのがこの歌のいいところでもありますね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐(あわのたくや)1票
【結城直 評】------------------------------------------------------------------------
情景描写に魅かれました。靴紐を結ぶために立ち止まる自分と、立ち止まらずに風景として流れていく人々。
靴紐を結ぶという行為が、風景(自分以外の人々)と自分とを隔てるかのようで素敵だと思いました。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び(虫武一俊)1票
【山階基 評】------------------------------------------------------------------------
初句・二句目は主体のモノローグ的なものでしょう。「そんなこともわからないのか」というような誰かの発話に対する応答だと想像できます。
「固結び」というのは、「そんなこともわからないのか」といわれて(しかも言い返して)しまうような主体のかたくなさを投影したものだと読みました。
「おととし」に「そんなこともわからないのか」と言われるようなことがあったけれど、今はそのときのかたくなさがほどけてきているということでしょうか。
しかし、「うつむいて」という動作、また「わかりませんが」という言い方から、まだあまり主体のなかで納得できていないようにも思えます。
僕は後者の読みをして、納得はいかないまでもかたくなさをほどこうとするという主体の意志が表れているという風に読んで、そこに魅力を感じました。
韻律の面では、四句目・五句目が非常に読みにくく感じました。語順の入れ替えなど、改善の余地が十分にあるはずです。
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