2012年12月5日水曜日

第4回空き地歌会(本編)飯田彩乃さんの評

飯田彩乃さんの評です。
全首にいただきました。
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こんにちは。飯田彩乃です。
以下は、第四回空き地歌会の前に下準備として作成していたメモです。歌評とか偉そうなものではありません。口調がえらそうなのは、それはメモだから…! メモが少ない歌については、他の人の解釈をお聞きしようと思ってあまり書かないでおいたものです。
錚々たるメンバーの中でひとり浮いているのをひしひしと感じていますが、せっかくなので公開しておくことにしました。


★A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ
(静岡県)音羽町にある置屋(遊女を置いていた家)ときわや、寅の刻(4時ごろ)。
午前4時はマツコが働く時間ではないのでは。マツコはなぜ笑い転げているのだろう。(マツコはマツコ・デラックス…?)
上句の音のリズムはとても良いと思うが、下の句の風景が茫洋としてしまっているために仕上がりきれていないような印象。笑い転げた理由があれば良かった。

B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖
「降りそそぐ」がどちらにかかるのかわかりにくくなっている。
「ほろ苦いコーヒー」「香り」「雪の結晶」「天使の砂糖」すべてが降ってくるようにも読める。
たぶんほろ苦いコーヒーの香りを楽しみながらそのコーヒーに雪のように砂糖を入れたということだろうけれど。
おそらく部屋の外で雪が降っているということも言いたいのだろうが、体言止めが二つあるなど、いかんせん表現が甘い。

C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る
情景が鮮やかに立ち上がるように見えて、疑問点が幾つか生まれる歌である。
ひざまずくとあるが、結界のせいで男と作中主体の関係性もしくは位置関係が見えなくなってしまった。
にっこり笑っているのはこちらを向いているからなのだろうが、だとしたらその結界は男が主体を守るためのものなのか。主体から男自身を守るための結界なのか。
物語性のある歌なので、連作の中に注意深く置けば立ち上がってくるかもしれない。

★D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい
下の句のリズムの悪さで言いさしのような感じになってしまって堅固な梱包になりきれてない印象。
ずらすときはずらすだけの意図があった方がよいのでは。
また、「梱包」はともかくとして「堅固」の響きがこなれていないように思う。だが、熟語をふたつ繋げると張りつめるように硬さが増すのは面白いと思った。

E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ
窓の外は夢で室内が現実ということだろうか。
内容がやや説明的な割には、説明不足のような感じ。なぜ窓の外が夢なのか。
窓が結露している必然性があまり感じられない。「ただ」が字数合わせに思える。

F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる
真冬日の結び目とあるが、この結び目はなんだろう。
想像上の産物でなく、想像をするとしたらマフラーなのだが…。そこまで迎えてしまってはいけない気がするので、すなおに冬の空気の締まった様子と取ればいいのか。
俵万智の、ホームで思いだすという歌(確認できず…)の逆バージョンのような感じ。

G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて
四億の意味がわからない。下の句のリズムが悪い。

H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦
鼓動、首、と肉体の部分をズームアップするかたちで表現しているのは生々しさが面白い。ただそれだけに、どこか一首がぶつ切りになってしまった感触がある。甘やかにも怖いようにも取れる歌であるのに、そのぶつ切り感でどっちつかずになってしまった印象。何かもう少しヒントがあっても良いのでは。

I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる
主体は女性、君は男性、と読んだ。
立ち読みとあるから、主体と君はまだ付き合ってはいない。だが、その前から別れを予期している、だから「立ち読み」。構造がわかるまでがわかりにくいか。上句のひねりは面白いと思う。

J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い

サンプルを本物かどうか確かめて触っている子どもの無邪気さ?
初句九音は無理があるように思うがどうか。他の部分は定型におさめているし、配慮は感じられる。
サンプルだけでも良かったのではないか。食品と書いてサンプルというルビは強引だろうか。

K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び
飛びたつ=解かれるで、たったひとつだけぽつんと取り残されたクリスマスプレゼント。来られなかった子か、来るはずのない子か。「飛びたつことのない蝶結び」が非在のかなしみを表していてうまいと思う。

L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き
最後の「好き」は賛否両論あるだろう。止まらない、という割にはぽろりとこぼれただけのようにも思える。
「も」は他にもほどかれたものがあるということ?

M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に
自作です。夜は人が靴を脱ぐ時間であり、夜のあいだはモノは安らいでいる。だが朝がくれば、靴は靴として、靴ひもは靴ひもとして一日を過ごさねばならない。
靴ひもからほどかれて飛び立つまぼろしの蝶のことを思って詠みました。

N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉
結露は昨日の言葉がかたちを持ったもの、という発想は面白いと思う。
ただ、どうして中指なのかがわからず、解釈に迷いが生じてしまった。文字を書いている?

O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる
もはや食傷気味な題材を「任意の光点」という言葉でかろうじて差別化している。星座ではなく神話としたところも同様だが、違いを出そうとあれこれ工夫をした感じがする。任意なのだから「散った」は必要だろうか。
ただやっぱり最後にはありがちという結論。

P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか
「恋人」くらいの方が「呼ばぬ」や「結語あざやか」という結句には合う気がする。が、結句そのものがごつごつとしていてあざやかではないような。
結語を言わないことで想像の余地を残しているが、あざやかと言い切らない方がいいかもしれないと思った。

★Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる
灯りという単語だとほんのり点るイメージなので、あびるは若干の違和感が。
終電の灯りをあびるというのはヘッドライトのことだろうか、だとしたら終電が入ってきたということでこのまま帰ってしまいそう?
情景にもう一歩踏み込んでもよかったのでは。

★R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました
電車の窓を想像しながら読んだが、それ以外の窓であれば東京はゆれるだろうか。また、複数形にしたのはなぜだろう。こすったものはそれはまだ結露だろうか?
だが「手をふったようにこすった」の一瞬の動作の切り取りがうまい。遠ざかっていく東京のビル街に手を降っている姿を想像する。

S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま
今週前半のTLでひもぱんとしか思えない…
文脈から言うと、「前もって」がいらない。「バカにもなりきれぬまま」が何のことを指しているのかいまいちよくわからなかった。

★T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています
しらたきを結ぶ行為というのはそんなにも恐ろしいものなのか?と思いながら調べてみたら、確かに結びしらたきは何かの幼虫のようで見ようによってはグロテスクだった。まあその前に、この歌は結ぶという手間暇のことを言っているのだろう。
「おそろしい」という形容詞を使わずに「おそろしさ」は出せなかっただろうか。

U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける
告げてきた相手は男?女? リボンだし、作中主体は女性っぽい。
だが、何のリボン結びだろう。きれいな形にして整えていた自分の気持ち?そしてそれがほどけるということは、解放?(それなら初句は「離婚」であるような)(肉食系…)
結が2つ入っていることで題に振り回されてしまった? 片方が結ばれて片方がほどけて、という構造は面白いのだけれど。

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