1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま
応募と抽選という言葉の組み合わせがうまいと思いました。それが生まれるにつながる驚きと「このざま」という結句の言葉の選択がよいです。下句のたたみこむようなリズムも生きていますね。
2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日
結晶って小さなもののイメージがあるけれど、すぐに「音もなくすべって」いくということから氷に包まれた街という絵は浮かびました。「して」ということから自然ではなく自分が氷にした暗い中をすべっていくのは何か怖い感じだけど、朝日はきれいだった、という情景はわかります。でも、何を言いたいかはよくわかりません。すみません。
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春
卒業していく同じ部の先輩と部室を掃除する。わからないのは「知らないままに」という意味ですね。部員としての付き合いがあるはずなのに「知らない」というところの解釈が重要なところなのでしょう。深く付き合いたかったのに、告白しないままで終わってしまった、が自然な受け止めかたなのかも。字余りと「知らないままに卒業する人」という言い回しがもう少し変われば、もっと良くなると思いました。あと、春という着地もついしてしまいそう。
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐
難しい歌が多いです(笑)。街をゆく人は自分とは関わりがなく、それはもう風景と同じだ、という感じでしょうか。それでもそういう社会を自分も歩き出さなきゃいけない、という決意が結ぶ靴紐なんでしょうね。よいと思います。リズムは合っているしこのままでもよいけれど、「人々はみな」のところはもう一考して、自分との対比が明確になるような言葉だとさらによいかと思いました。
5「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない
まず、そのお知らせは何で届いたのか知りたい(笑)。メールで来たならアドレスはわかるのだから相手におめでとうを届けられちゃいますよね。それ以前に、携帯を変えたお知らせなら、アドレスも書いてありそうなのに。結婚を素直に素直によろこべないことの理由を相手のせいにしているのかもしれません。
6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい
蝶とイチョウの駄洒落は好きです(笑)。イチョウの葉の形が蝶の片翅(かたはね)みたいに見える、木についているときは蝶結びのようだけど、約束が守られずに散ってしまうとそれは儚いものに変わってしまうという感じなのでしょう、いいですね。散る散るがはらはらとたくさん落ちていく感じなのだけれど、約束がそんなにあるわけはないと思うので、そこがちょっとひっかかります。
7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ
泣け、と言わなくても、その状態はすでに泣いていると思うので、「俺の胸で泣け」ということなのですね。そういうことができる関係だったら、そんなこと言って抱きしめなくても泣きついてくれそうな気がしますけれど、現実はなかなかありえない状況なのかも。
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び
「そんなことわかりませんが」にせず字余りでも「も」を入れることや下句の句またがりも自覚してやっているとは思いますが、その効果がいまひとつ発揮できていない感じがします。誰かへの発言なのにそこを見ずに解いている、その「おととし」はいったい何なのでしょう? 何だかよくわかりません。
9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟
あねもねの平仮名はよいですねー、花を大切にする気持ちもふくまれてゆるく結うも良い感じ。そして事実なのでしょうけれど、それが病棟であることが、なんと言ったらよいのでしょう、逆に残念な感じがしてしまいます。他の言葉と合わせて、つい、いかにもという設定に思えてしまうのです。
10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝
あなたが残していった靴下を履いてみたら、大きくてつま先が余った、という描写は素敵。だからこそ、結ばれぬの位置や晴天の朝という終わり方がとても残念です。それ以上に、洗った靴下ならともかく、残していった他の人の靴下は普通履けないですよね(笑)、好きな人のなら私は履けますけど、パンツもか被れますけれど。
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる
きれいな短歌ですね、漢字の平仮名への開き方も好きです。待ちつつなので月日はいらないかと思ったけれど、時間単位で待っているのではなく長い間という意味では有効な気がしてきました。若葉雨の風情が普通なら行きすぎちゃうところがちょうどよいと思います。その結び目は何? ということは置いといて。
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
靴ひもがほどけていると、自分で踏みつけて転んだりすることがあるけれど、それより怖い感じがする歯車に巻き込まれるかも、という恐れがあるのを終わりの「たっけ」が軽くさせていてうまいです。はたしてゆっくりと回る歯車は何なのでしょう? つい社会の歯車的なことを連想してしまうので、それに反発するために踏みつける、でも巻き込まれてしまうかもしれない、という気持ちの読みでよいのでしょうか?
13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末
映画とかドラマになぞった恋愛の話しですね。本当は恋人役になるはずだったのに、主人公には絡めないまま、通行人として終わってしまうのはかなしい。Bという選択もさらにかなしみ感が増します。「間違い」という表現が、私でない誰かをえらんだことも伝えてますますかなしい。
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ
「結び繋げる」と「刻み込まれ」が言葉として対になっている感じがよいです。螺旋は素直にDNAだと思えばよいのでしょうね。その太古からの本能が、生きることは生殖行為だという意味で結び繋げと言っているのなら、さらにすごいなーと思います。「騒ぐ」が良いですね。
★15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って
誰もが知っている童謡(フレーズ)をモチーフにしてしまうと、逆にそこから広げられなくなってしまうこともありますが、これはとてもよく作られていると関心しました。ほとんどそのままなのに約束をはさんだことで全然違う世界にしてしまう。
16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら
もうひとつ同じ言葉を使っている短歌ですが、これもとてもうまく作られていると思います。下句の破調も気にならずそのまま勢いで読めてしまうところもいいですね、歌っているような流れがあります。上句の選択の余地はもう少しあったかもしれません。
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを
祈る時にしゃがむのはどちらかというと西洋的な感じがします。どうして? という疑問がうかんでしまうけれど、ついでに祈っておこうというのは、とても面白いです。
18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実
急にしゃがみこんで立ち上がると目眩がするのはあることだけど、収まるまでは目を閉じてしまうような気がするので、見上げる格好ではあるけれど見ていないと思うのです。口実でも何でもないけどそう言い切るのは強がりかな。初め「結わえた」を「くわえた」と勝手に誤読してしまいSMな歌なのかと思ってしまいました(笑)。
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう
クノールはブランド名なのにカップスープだとわかる使い方はうまいとおもいました。「また」も実際みんながよく思う事で共感まで得ます。でも、ここでいう結末は何のことか私にはよくわかりません。もしかしたら溶け残ったものの処理を任せるということなのかも。飲み干すのも捨てるのもあなたにまかせる。そう考えると、スープの朝のさわやかさから、大きく離れた歌でよいですね。
20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ
今の人は知っているのでしょうか、プロポーズ大作戦のフィーリングカップル5×5。「けどさ」とか「なんじゃないこれ」とかいう言い回しは狙いだとは思うけれどどうなんでしょう。TVを観ている側としてのつぶやきなのかも知れません。自分が思ってもいなかったことでも、結果オーライなことがある、ということを言いたいのかな。それとも本当は自分が狙っていた人を取られてしまったことを誤魔化しているのかもしれません。自分もしそうです(笑)。
21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い
二句目の字足らずはわざとではきっとないと思うし、いくらでも言い方はできると思うのにどうしてだか気になります。朝でも夕方でもない真昼の月は、もしかしたら幻想を見ているのかも、または太陽そのものかも。それなら痛いも効果的ですね。
22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて
結晶は純粋なものこの場合は雪ですね、それに不純な僕らという対比は面白いです。「ことごとく」という響も面白いけれど、「閉じ込められて」ということから何度もとは思えないので、ちょっと使い方が厳しいかも。
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません
「:」で仕切るのなら「鑑定結果」としたいところなのに、文字数を合わせるために「の」を入れた感じがしてしまうのと、そこまでしてるのに三句目の字足らずなのがよくわかりません。運命の人ってなんだよ、という内容は面白いです。自分ひとりではなく、ふたり一緒に鑑定結果を見ている、知ってしまった感じがするけれど、言い切りは彼女の意思の現れなのかも。
24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら
「うむ」「うむ」という表現は面白いです、指を結ぶは、本当は指を絡めてという動作なのでしょうけれど、それだとお題が詠み込めないので辛いところです。もちろん結んだらでも悪くない表現ではありますが、ちょうどよい距離って腕を組んだり手をつないだじゃなく、指をつないだちょっと離れた距離と言いたいのでしょうね。指を結ぶには約束の意味もあるかもしれません。
25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった
相反することを言って面白さを出すというのはわかるのですが、この手の短歌が苦手で、私自身は面白さがよくわからないのです。まあ、よく知らない人の結婚式に出る、ということ自体おかしな話なので、何かの比喩なのかとも考えたけれど、ごめんなさいわからないです。出たくない式に出て、嫌だけどそれでも祝福したるのかな。
26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ
結晶はこの場合、綺麗とか純粋とかではなくて大切なものという感じなのでしょう。書いてないけれど落として割ったのが、拾ってということからわかります。同じように拾うということが取っておく行為を想像させ、掃いては捨てるを思わせるのはうまいですね。終わりの命令形は自分に言い聞かせてる。言っている中身が普通なのでもう一捻り欲しくなります。
27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る
ほどくきみの手のつめたさがわかる、ということは自分もその手に触れていることですよね。手と手じゃなくて、それは私自身が触れられてほどかれているということなら、かなりエッチい(笑)。でも、そういう関係の相手の手がつめたいってどういうことなのだろう。それで自分のあたたかさ、生きているのを知るということは。
28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける
私にはわかりにくい歌です。こういうのを二物衝突とはいわないのかもしれないけれど、上句と下句の関わりがわからない。でも、それが面白みをだしているのでしょう。鮮魚が別の結論って意味付けるのも変ですし。何かおかずが一品で、それじゃあどうなのと言われ買いに行く感じも浮かべてしまいます。
29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる
どこの結び目だろう? 昔の手紙とか写真とか入っている箱を想像しました。中身を見ても恥ずかしいのだろうけれど、そうしなくてもすむくらい先に昔を思い出して懐かしんでる感じなのかも。
30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ
いいですね、知らないではなく「馴染みない」という言い方が効いてます。本当はネクタイはどこでも結びかたなんて変わらないと思うけれど、平静を装っているのか余裕を見せたいのか、男らしいです(笑)。もしかしたら本当のプレイボーイなのかも。
31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります
普通、花束のリボンは、花束はほどかない気がするのだけれど、「ほどくべく」とあるのは祝福とは少し違うのかも、そこが変わっていて好きです。花がバラバラになることが雨ではなくて、その状況に泣いている自分がいるということなのでしょうね。そこの表現もよいですね。
2012年12月12日水曜日
第4回空き地歌会 スピンオフ詠草 飯田彩乃全首評
1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま
生命の誕生を抽選と言いきるシニカルさ。ざらっとした手触りのまま結句までもっていった巧い歌だと思いました。
2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日
街を結晶にする、という発想が美しいと思います。なんだろう、「いけば」と「朝」のあたりでちょっと穂村弘を連想しました。
ただ、きれいな朝日と締めるのはどうなんでしょう。四句目までで朝日が出たらきれいだろうと想像はつくので、きれいと言う必要はあったかな、と思います。
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春
部室、という場所がいいですね。同じ部活なのでクラスメート以上の関わりはあったかもしれないのに、知らないという事実が先に立ってしまう。
知らないままに、という二句目が茫洋としていますが、きっと何を知らないのかも知らないのだろうなと思います。
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐
若さに溢れた歌だと思いました。人はこの視座からやがて風景に埋没していくのでしょうが、それに抗うように主体が靴紐を結ぶという行動をとるのがとても良いと思います。街をゆく人々の動、立ち止まる自分の静の対比も鮮やかです。
挑戦的で、好きな歌です。
5 「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない
その二つのお知らせを一緒にする雑さにフォーカスを当てた点は面白いと思いました。
ただ、携帯を変えたというお知らせが来たならば、おめでとうは届くのでは…?と思ってしまいました。
6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい
蝶結びと散るイチョウと片翅のイメージが、響きあうようでいて像を結びきれませんでした。約束がどういうものかもわからないので、一首で表現したいことが伝わってきませんでした。
7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ
上の句は良いのですが、下の句から動作のぎこちない説明になってしまっているのが気になりました。定型には収まっているのですが、「胸に抱きしめ」の結句が中途半端な感じがします。あと、この内容で動詞五つは多いと思いました。
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び
誰も彼もが知っている「そんなこと」すら自分はわからない。
解いている固結びがおととしであるということのどうしようもなさといい、良い自嘲短歌だと思います。
★9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟
Mたけさんではありませんが、妹短歌が好きです。好きなんです。…いや、そうではなくて。
花を扱うように、妹の髪にやさしくふれる。この歌がもつ優しい雰囲気に惹かれます。韻律もなめらかでしっとりしていますよね。
あねもねの「あね」と髪を結われている「妹」の対比もそれほど嫌味ではなく、すっと胸に落ちてきます。
10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝
三句目「結ばれぬ」をどう取ればいいのかわかりませんでした。ここがなければ、意味は取れるのですが…。
君が先に逝ってしまったから結ばれないということでしょうか? いや、それとも「遺す」だから、亡くなろうとしている…?
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる
生きていくってそういうことだよね、と再確認するような、しっとりとした良い歌だと思います。
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
「ゆっくりと回る歯車」で踏みつけているものにフォーカスが当たってしまっているので、どちらかというと巻き込まれていく靴ひもをもう見ていそうな気がしてしまいました。でもぞっとする歌で、なんで歯車を踏みつけているのかとか、くろぐろとした秘密がありそうで好きです。
13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末
結句の「終わる結末」がややぶっきらぼうなような気が。これでもいいと思うのですが、終わるも結末も同じことを言っているかなと思いました。
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ
これも動詞が多い歌ですが、この歌では、遺伝子が騒ぎ立てている感じが現れていて、一定の効果になっていると思います。
15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って
結句「手を打って」はダブルミーニングでしょうか。結句ではっとさせられる感じはするのですが、立ち止まるポイントがなかったかな、という印象です。
16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら
下の句の字余り、八十は大胆ですね。さようならのうまできちんと入れていても投げやりっぽい感じで、これは成功していると思います。
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを
「靴にひもなく」で、表記のせいなんですけど、一瞬ん?となってしまいました。靴ひもはなく、でリフレインにしても良いのではと思うのですが。ここはこだわりでしょうか。
結句のこの開き直り、きっちりと歌をまとめあげている感じがして、わたしは好きです。
18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実
下の句が上の句と同じことを言っていて、言い換えまたは説明になっているという、これはよくあるパターンなんですけど、歌では説明じゃなくて表現をしないと、と思います。これは自分にも言い聞かせていますが。
あと、体言止め+体言止めになっていて、もちろん体言体言が全部だめというわけではありませんが、この歌の場合は靴ひもという地から空へと開けていく展開がとても気持ちがいいのに、体言止めでその広がりを止めてしまっている気がするので、余韻の残る終わり方にすればもっと良い歌になると思います。
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう
初句二句の気だるい感じ、からの流れに惹かれます。諦めのようでもあり、したたかさの現れのようでもあり。クノールという道具立ても素敵です。
20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ
下の句の呆れたようなリズムの良さがいいですね。「結果オーライ」、結という題詠の歌のなかで見るとなかなか新鮮です。
21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い
球種でいうならストレートで押してくる歌だと思いました。白さが痛いというヒリヒリした表現が魅力です。
22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて
雪のことだと思うのですが、「ふりつもる結晶」としたことで一気に異世界のようの情景になりました。そして、純度の高い街に閉じ込められているのが不純物である僕らであるという事実にもぐっときます。
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません
記号や半角スペースをこまごまと入れることで機械っぽい音声で読ませることに成功していて、面白いと思います。
問題は「運命の人」というキーワードでしょうか。こういった慣用句というか常套的な言葉は、気をつけて使わないと一首の面白さをまるまるなくしてしまうような気がします。この歌の場合だと、上の句からの流れで結末がもう見えてしまって、裏切られることがないのが残念だと思いました。
24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら
「うむ」「うむ」がかわいいですね。ちょっとおかしなやり取りがこなれてきた頃なのでしょう。
二句目と四句目がどちらも字余りなので、二句目の「結んだら」は「結んで」でもよいかと思いました。
25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった
どこか肩身が狭いような、落ち着かない気分でいるときに、自分が知っているものがふっと現れる。妙な安心感のような感情が出ていると思います。
ただ少しパンチが足りないんですよね。あるある、で終わってしまう歌かなあ。
26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ
「て」のリズムでの畳み掛けは面白いと思いますが、いささか動詞が多く一首としては少し重たいでしょうか。一首に動詞は3つまで、と言われることもありますね。あくまで目安ではありますが。
初句の唐突さも、何の結晶かがわからないため、生きていないような気がします。
27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る
一読して、ブラジャーのホックのことかな?と思いました。
きみの手のつめたさで自分の体温を思いだす、動物的な一瞬が切り取られて面白いと思います。一首を通しての温度もどこか低めであるように感じました。
28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける
「結論」がひとつでは足りないのか、「ひとつでは足りない」というのが結論なのか。迷ってしまいました。
鮮魚を買いにというのも主体からすると必然性のある行為なのだと思いますが、いまひとつピンと来なかったです。
29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる
結び目をほどいたら、恥ずかしい過去どころではない様々なものが噴出してしまうのでしょう。思い出すというのは、確かにガス抜きのような行為ですよね。
ただ、「恥ずかしい過去をいくつか」というのがぼんやりしてしまっているかなと。その恥ずかしい過去ってなんだろう、と思います。
30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ
大人で、しかもどこかエロティックな香りもする歌ですね。その、馴染みのない部屋というのがどこなのか。想像が膨らみます。
かっちりとした、手堅い作りの歌だと思います。
31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります
選ぼうかどうか迷った歌です。
ただこの歌、初句二句がいらない気がしてしまったんですよね。題詠なんですけど。花束のリボン=ほどくべく結ばれている、という前提があると思うので。
わかっていることをわざわざ説明してしまうよりは、どのように結ばれているかなどに文字数を割いた方がよかったかなと思いました。
生命の誕生を抽選と言いきるシニカルさ。ざらっとした手触りのまま結句までもっていった巧い歌だと思いました。
2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日
街を結晶にする、という発想が美しいと思います。なんだろう、「いけば」と「朝」のあたりでちょっと穂村弘を連想しました。
ただ、きれいな朝日と締めるのはどうなんでしょう。四句目までで朝日が出たらきれいだろうと想像はつくので、きれいと言う必要はあったかな、と思います。
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春
部室、という場所がいいですね。同じ部活なのでクラスメート以上の関わりはあったかもしれないのに、知らないという事実が先に立ってしまう。
知らないままに、という二句目が茫洋としていますが、きっと何を知らないのかも知らないのだろうなと思います。
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐
若さに溢れた歌だと思いました。人はこの視座からやがて風景に埋没していくのでしょうが、それに抗うように主体が靴紐を結ぶという行動をとるのがとても良いと思います。街をゆく人々の動、立ち止まる自分の静の対比も鮮やかです。
挑戦的で、好きな歌です。
5 「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない
その二つのお知らせを一緒にする雑さにフォーカスを当てた点は面白いと思いました。
ただ、携帯を変えたというお知らせが来たならば、おめでとうは届くのでは…?と思ってしまいました。
6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい
蝶結びと散るイチョウと片翅のイメージが、響きあうようでいて像を結びきれませんでした。約束がどういうものかもわからないので、一首で表現したいことが伝わってきませんでした。
7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ
上の句は良いのですが、下の句から動作のぎこちない説明になってしまっているのが気になりました。定型には収まっているのですが、「胸に抱きしめ」の結句が中途半端な感じがします。あと、この内容で動詞五つは多いと思いました。
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び
誰も彼もが知っている「そんなこと」すら自分はわからない。
解いている固結びがおととしであるということのどうしようもなさといい、良い自嘲短歌だと思います。
★9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟
Mたけさんではありませんが、妹短歌が好きです。好きなんです。…いや、そうではなくて。
花を扱うように、妹の髪にやさしくふれる。この歌がもつ優しい雰囲気に惹かれます。韻律もなめらかでしっとりしていますよね。
あねもねの「あね」と髪を結われている「妹」の対比もそれほど嫌味ではなく、すっと胸に落ちてきます。
10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝
三句目「結ばれぬ」をどう取ればいいのかわかりませんでした。ここがなければ、意味は取れるのですが…。
君が先に逝ってしまったから結ばれないということでしょうか? いや、それとも「遺す」だから、亡くなろうとしている…?
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる
生きていくってそういうことだよね、と再確認するような、しっとりとした良い歌だと思います。
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
「ゆっくりと回る歯車」で踏みつけているものにフォーカスが当たってしまっているので、どちらかというと巻き込まれていく靴ひもをもう見ていそうな気がしてしまいました。でもぞっとする歌で、なんで歯車を踏みつけているのかとか、くろぐろとした秘密がありそうで好きです。
13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末
結句の「終わる結末」がややぶっきらぼうなような気が。これでもいいと思うのですが、終わるも結末も同じことを言っているかなと思いました。
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ
これも動詞が多い歌ですが、この歌では、遺伝子が騒ぎ立てている感じが現れていて、一定の効果になっていると思います。
15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って
結句「手を打って」はダブルミーニングでしょうか。結句ではっとさせられる感じはするのですが、立ち止まるポイントがなかったかな、という印象です。
16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら
下の句の字余り、八十は大胆ですね。さようならのうまできちんと入れていても投げやりっぽい感じで、これは成功していると思います。
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを
「靴にひもなく」で、表記のせいなんですけど、一瞬ん?となってしまいました。靴ひもはなく、でリフレインにしても良いのではと思うのですが。ここはこだわりでしょうか。
結句のこの開き直り、きっちりと歌をまとめあげている感じがして、わたしは好きです。
18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実
下の句が上の句と同じことを言っていて、言い換えまたは説明になっているという、これはよくあるパターンなんですけど、歌では説明じゃなくて表現をしないと、と思います。これは自分にも言い聞かせていますが。
あと、体言止め+体言止めになっていて、もちろん体言体言が全部だめというわけではありませんが、この歌の場合は靴ひもという地から空へと開けていく展開がとても気持ちがいいのに、体言止めでその広がりを止めてしまっている気がするので、余韻の残る終わり方にすればもっと良い歌になると思います。
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう
初句二句の気だるい感じ、からの流れに惹かれます。諦めのようでもあり、したたかさの現れのようでもあり。クノールという道具立ても素敵です。
20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ
下の句の呆れたようなリズムの良さがいいですね。「結果オーライ」、結という題詠の歌のなかで見るとなかなか新鮮です。
21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い
球種でいうならストレートで押してくる歌だと思いました。白さが痛いというヒリヒリした表現が魅力です。
22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて
雪のことだと思うのですが、「ふりつもる結晶」としたことで一気に異世界のようの情景になりました。そして、純度の高い街に閉じ込められているのが不純物である僕らであるという事実にもぐっときます。
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません
記号や半角スペースをこまごまと入れることで機械っぽい音声で読ませることに成功していて、面白いと思います。
問題は「運命の人」というキーワードでしょうか。こういった慣用句というか常套的な言葉は、気をつけて使わないと一首の面白さをまるまるなくしてしまうような気がします。この歌の場合だと、上の句からの流れで結末がもう見えてしまって、裏切られることがないのが残念だと思いました。
24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら
「うむ」「うむ」がかわいいですね。ちょっとおかしなやり取りがこなれてきた頃なのでしょう。
二句目と四句目がどちらも字余りなので、二句目の「結んだら」は「結んで」でもよいかと思いました。
25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった
どこか肩身が狭いような、落ち着かない気分でいるときに、自分が知っているものがふっと現れる。妙な安心感のような感情が出ていると思います。
ただ少しパンチが足りないんですよね。あるある、で終わってしまう歌かなあ。
26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ
「て」のリズムでの畳み掛けは面白いと思いますが、いささか動詞が多く一首としては少し重たいでしょうか。一首に動詞は3つまで、と言われることもありますね。あくまで目安ではありますが。
初句の唐突さも、何の結晶かがわからないため、生きていないような気がします。
27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る
一読して、ブラジャーのホックのことかな?と思いました。
きみの手のつめたさで自分の体温を思いだす、動物的な一瞬が切り取られて面白いと思います。一首を通しての温度もどこか低めであるように感じました。
28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける
「結論」がひとつでは足りないのか、「ひとつでは足りない」というのが結論なのか。迷ってしまいました。
鮮魚を買いにというのも主体からすると必然性のある行為なのだと思いますが、いまひとつピンと来なかったです。
29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる
結び目をほどいたら、恥ずかしい過去どころではない様々なものが噴出してしまうのでしょう。思い出すというのは、確かにガス抜きのような行為ですよね。
ただ、「恥ずかしい過去をいくつか」というのがぼんやりしてしまっているかなと。その恥ずかしい過去ってなんだろう、と思います。
30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ
大人で、しかもどこかエロティックな香りもする歌ですね。その、馴染みのない部屋というのがどこなのか。想像が膨らみます。
かっちりとした、手堅い作りの歌だと思います。
31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります
選ぼうかどうか迷った歌です。
ただこの歌、初句二句がいらない気がしてしまったんですよね。題詠なんですけど。花束のリボン=ほどくべく結ばれている、という前提があると思うので。
わかっていることをわざわざ説明してしまうよりは、どのように結ばれているかなどに文字数を割いた方がよかったかなと思いました。
2012年12月11日火曜日
第4回空き地歌会 スピンオフ詠草 結果発表
みなさまご投稿ありがとうございました。
第4回空き地歌会参加者21名が1首ずつ選歌させていただき評を書きました。
( )内が作者のお名前、
○票とあるのが、票数です。
また、ここをクリックするとそれぞれの評にリンクします。
※飯田彩乃さんと天国ななおさんによる全首評を明日(12/12)別途アップします。
---------------- 第4回空き地歌会 スピンオフ詠草 結果発表 ---------------------
1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま(木下龍也)4票
2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日(小早川一彦)
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春(Tetsu)2票
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐(あわのたくや)1票
5 「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない (トーヤ)
6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい(月夜野みかん)
7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ(薫智大介)
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び(虫武一俊)1票
9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟(さとうはな)5票
10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝 (mimi)
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる(紗都子)1票
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ(じゃこ)
13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末 (葛山葛粉)
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ(本間紫織)2票
15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って(なまにく)2票
16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら(平賀谷友里)
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを (ごみたゆうこ) 1票
18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実(まふまふ)
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう(小林ちい)1票
20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ(芹沢玄)
21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い(螢子)
22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて(嶋田さくらこ)
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません(山田水玉)1票
24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら(都季)
25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった(牛隆佑)
26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ(在原紀之)
27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る(泉かなえ)
28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける (実山咲千花)
29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる(藤崎しづく)
30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ (ユキノ進)
31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります (葉山なぎ)
第4回空き地歌会参加者21名が1首ずつ選歌させていただき評を書きました。
( )内が作者のお名前、
○票とあるのが、票数です。
また、ここをクリックするとそれぞれの評にリンクします。
※飯田彩乃さんと天国ななおさんによる全首評を明日(12/12)別途アップします。
---------------- 第4回空き地歌会 スピンオフ詠草 結果発表 ---------------------
1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま(木下龍也)4票
2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日(小早川一彦)
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春(Tetsu)2票
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐(あわのたくや)1票
5 「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない (トーヤ)
6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい(月夜野みかん)
7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ(薫智大介)
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び(虫武一俊)1票
9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟(さとうはな)5票
10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝 (mimi)
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる(紗都子)1票
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ(じゃこ)
13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末 (葛山葛粉)
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ(本間紫織)2票
15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って(なまにく)2票
16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら(平賀谷友里)
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを (ごみたゆうこ) 1票
18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実(まふまふ)
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう(小林ちい)1票
20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ(芹沢玄)
21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い(螢子)
22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて(嶋田さくらこ)
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません(山田水玉)1票
24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら(都季)
25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった(牛隆佑)
26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ(在原紀之)
27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る(泉かなえ)
28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける (実山咲千花)
29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる(藤崎しづく)
30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ (ユキノ進)
31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります (葉山なぎ)
第4回空き地歌会 スピンオフ 評17&19&23
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを(ごみたゆうこ)1票
【ショージサキ 評】--------------------------------------------------------------------------
靴ひもを結ぼうとしゃがむ仕草ってひざまづいて神に祈る動作にも似ていますよね。
終わったあとに一瞬天を仰いでみるかんじとか。
リアルな出来事としても読めるし、
「靴にひもなく」=何か大切なもの(もしくは当たり前にあるもの)を知らないうちに無くしてしまった、という比喩とも読めるなと思いました。
また自分だったら、
4句目はただ単に「靴ひもがなく」
と詠みこんでしまうだろうなあ。。。
「靴にひもなく」とひもに重点を置いた言い回しにも細かい工夫が感じられました。
「ならば祈りを」という結句は、最初、唐突な印象を受けてしまい、少し気になる箇所ではあったのですが、読んでいくうちにそのインパクトがこの歌の持ち味なのではないかとも思いました。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう(小林ちい)1票
【篠原謙斗 評】------------------------------------------------------------------------------
なにかの終わりが来た時に自分の好きなようにあまりできてこなかったからか、共感しました。この歌の主人公は前向きな気持ちなのかな。一緒に酒飲みたい。身近に人物を感じられるいい歌だと思いました。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません(山田水玉)1票
【あおい月影 評】----------------------------------------------------------------------------
2人で、占いの鑑定に行って、どうやら運命の人ではないと告げられた。そのあとの2人の行動が気になる、歌だと思います。沈黙になったのか、笑いあったのか、鑑定後の2人の行動がとても気になる、余韻がある素敵な歌だと思いました。上級テクニック感じさせる、魅力的でとても好きです。
第4回空き地歌会 スピンオフ 評11&14&15
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる(紗都子)1票
【野比益多 評】------------------------------------------------------------------------------
じっくり読むと、いろいろな読み方ができる歌だなと思いました。
いちばん最初に思ったのは、恋愛かなあと。
主体は文体や内容的に女性かな?ととりました。
なので、主体が思いを寄せる男性Aがいて。
その男性Aにはまだほどかれていないゆびの女性Bがいる。
そちらの関係が終るのを待ちながら、
主体は男性Aとの間に結び目(絆)をどんどんつくっていく。
でも「若葉雨ふる」というところで、
主体はその月日にまったく後ろめたさは感じていない。
という怖い読み方をしておもしろいなあと思いました。
でも、また別の読み方もできるなあと。
主体は小さな子どものお母さんで、
小さいころは手をつないで歩いていたけれど、
成長したらそのゆびはほどかれるんだろうなあ。
と思いながら、結び目(絆)をつくっていく。
「若葉雨降る」というのも、こどもの成長をさしている。
「ゆび」が漢字でなくひらがなであることからも、
親子説が有力な気がしますね。
どちらにしても考え抜かれてつくられているからこその
読み解いていくおもしろさがあり、
この一首を選ばせていただきました。
あ、でも動詞が3つ出てきて少し煩雑かなあとも思いました。
「待つ」「つくる」「ふる」。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ(本間紫織)2票
【住友秀夫 評】-------------------------------------------------------------------------------
機械のきしむ音がした。そちらへ目を向けてみると螺旋状にネジを切った部品が動力を伝え機械が動いている。
それを見て作者は「人生には職場や家庭などあらゆる所で人と人とのつながりが不可欠で、
後の世代に知識・経験・血・心等を伝えていく役割を必然的に負っている。」と感じたのではないでしょうか。
結句の「螺旋が騒ぐ」はそのような役割を忘れがちな我々に「気づきなさい」と機械が訴えているように思いました。
定年まであと三年半の私には「お前はそのような役割を果たしてきたか」と問われているようでもあり
また励まされているようにも感じました。
作者の方、いい歌をありがとうございました。
【土屋智弘 評】-------------------------------------------------------------------------------
一読、二重螺旋構造を持つDNAのこととわかる。命を繋げてゆくためのシステムとしての躍動感を表現している感じがよくて選んだ。ただ、テンポよくDNAがやるべきことを並べているが、動詞が多くて騒々しい印象が強くなっているのが惜しい。そこが表現したい所なのかもしれないが、もう少し落ち着いた表現ができればなおよいと思う。と言いつつ、スピンオフ31首の中では一番惹かれた歌である。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って(なまにく)2票
【晴見奏司 評】------------------------------------------------------------------------------
不思議な魅力を持った歌だと思う。
童謡のむすんでひらいての様に
一首の中に延々と繋がっていく様なイメージを持った。
(むすんでひらいて手を打ってむすんでひらいて手を打って…の様な)
人は生きている内にどれほどの約束を交わすのだろう。
縁の糸も時には絡む事もあると思う。
手を打つと言うのは必要な対策を取ると言う
言葉そのままの意味もあるのだろうが
私の中では手を打つと言う行為そのものに神聖なイメージがあって
かしわ手を打つ事により邪気を払って
心機一転また約束を結び直しましょうと言った
前向きな歌だと解釈した。
31首の中では一番目についた歌である。
【天国ななお 評】-----------------------------------------------------------------------------
誰もが知っている童謡(フレーズ)をモチーフにしてしまうと、逆にそこから広げられなくなってしまうこともありますが、これはとてもよく作られていると関心しました。ほとんどそのままなのに約束をはさんだことで全然違う世界にしてしまう。
第4回空き地歌会 スピンオフ 評9
9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟(さとうはな)5票
【浪江まき子 評】-----------------------------------------------------------------------------
初句二句の韻律が良いと思いました。また全体としてあねもね、妹、髪を結う、春…など甘めの言葉が並んでいますが、最後に場面設定を病室とすることで妹の穏やかではない状況、(読み手には病状などはわからないので)意味深さのある雰囲気に回収しているところを評価しとりました。
(個人的な話で評とは言えませんが)最初、「結」という題を与えられたとき、私も髪を結う景を詠みたかったのですがどうしても甘い感じ、もしくは女性性を強調するようなものばかりになってしまい、何か違うと諦めたので、こういう題の処理の仕方もあったか、と勉強になりました。
【たえなかすず 評】-------------------------------------------------------------------------
美しい歌。
「あねもね」のひらがな表記で優しさと、淡さを同時に表し
あねといもうとのの対比を生み出す。
“あね もね 束ね”
の「ね」の繰り返しが姉妹のたおやかさを表現していると思う。
姉である主体が妹の髪を結ってやる。かすかな情感がたちあがる瞬間である。
「姉妹の聖域」を感じさせて上手い。
病室の方がいいと思ったが病棟の方が詩情があるので良いだろう。
アネモネの花言葉は「はかない夢」「薄れ行く希望」とある。
姉の気遣い、姉妹愛がはかなくも美しい。
次点。
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
不穏で好きです。
靴ひもは結ばれておらず、歯車に……
と負の方向に思わせる点がうまいです。
【飯田彩乃 評】-----------------------------------------------------------------------------
Mたけさんではありませんが、妹短歌が好きです。好きなんです。…いや、そうではなくて。
花を扱うように、妹の髪にやさしくふれる。この歌がもつ優しい雰囲気に惹かれます。韻律もなめらかでしっとりしていますよね。
あねもねの「あね」と髪を結われている「妹」の対比もそれほど嫌味ではなく、すっと胸に落ちてきます。
【龍翔 評】---------------------------------------------------------------------------------
第4回空き地歌会スピンオフにご参加の皆さま。
初めまして。ご無沙汰しております。龍翔と申します。
僭越ながら、一首選一首評をさせていただきます。
とても素敵な短歌ばかりで迷いに迷いましたが、
9の短歌にコメントさせていただきます。
直観的に、姉妹を詠んだ御歌だと思いました。
「あねもね」の「あね(姉)」という言葉の響きからかもしれません。
或いは、「アネモネ」とカタカナ表記にせず、ひらがな表記であることで、
視覚的にそう「感じさせられる」のかもしれません。
作中主体が姉にせよ、兄にせよ、
年上のきょうだいが、妹が痛い思いをしないようにと慮ってか、
「髪ゆるく結う」ところに、何とも言えない優しさを感じます。
「あねもね」、「ゆるく」などのいうひらがな表記は、
それ自体「あねもねを束ねるよう」な円みがあり、
加えて「ゆるく結う」という「ゆ」の音の連続が、
短歌全体から優しさや温かさを醸し出しています。
まさに、春の雰囲気とも合っていると思います。
「病棟」という表現から、病院の情景であることが分かります。
入院している妹の髪を姉が結んでいる風景なのか、
或いはその逆で、妹はお見舞いに来ているのか、
実は、二人ともが誰かのお見舞いで、病院で戯れているところなのか、
残念ながら、短歌の中からその詳細を読み取ることはできませんが、
そのようなストーリーをすることにこそ楽しさがあるのだとも言えます。
(私の印象としては、前者のイメージが強いかもしれません。
入院で辛く寂しい、痛い思いをしている妹に、
これ以上そのような思いをさせまいとする姉の気遣いを感じました。皆さまは如何でしょうか。)
深読みになりますが、以前ピカソの代表作〈ゲルニカ〉について聴いたことを思い出しました。
スペイン内戦の惨事を描いたこの絵画の中央下部には、
「再生」と「希望」の象徴として、アネモネの花が描かれています。
春を告げる「あねもね」とは、病床に伏せる妹の姿そのものなのかもしれません。
非常に優しさに溢れる素敵な御歌だと思います。長々と失礼致しました。
追記。空き地歌会のように、五首を選歌するとすれば、
9、19、23、25、30に投票させていただきたいと思います。
【魚住蓮奈 評】---------------------------------------------------------------------------------
春の明るさがよくでてます。あねもね、のかな表記、ゆるく、のやさしさがいい。ね、や ゆ、の音の繋がりのせいでしょうか、全体のゆったりとした時間の流れを感じさせます。
第4回空き地歌会 スピンオフ 評3&4&8
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春(Tetsu)2票
【麦太朗 評】------------------------------------------------------------------------------
長く付き合ってきた友達でも、その人の芯の部分はわからないものです。これ
は恋人同士でも、さらには夫婦でも同じことが言えます。部室を掃除するときは、
ほとんどの場合は二人が同じ空間にいてもそれぞれ違う作業をしているものです。
具体的な行動の描写によって二人の微妙な関係がうまく表現されています。
卒業と掃除があれば春は不要という気もします。また、結局はという言葉は硬
い感じがするので他の言葉への置き換えも考えられます。抒情あふれる素敵な歌
ですが推敲の余地はあると思います。
【田中ましろ 評】-------------------------------------------------------------------------
部室を掃除する、という表現がすごく新鮮でした。ぱっと見たときに相聞かと思
ったのですが、男女で部室が同じということはあまりないかなぁ、ということで
同性、友達の歌として読みました。希望的観測で作中主体は女子で。隠し事をし
ていて後ろめたい気持ちのある女友達と二人きりの空間。たとえば、友達の好き
な人が内緒で付き合ってる自分の彼氏とか。「結局は」に少なからず友達に事実
を打ち明けるかどうか葛藤した痕跡があり、でも結果、伝えていないことがわか
る。それが気まずさを増幅するのに非常に良く機能しているように感じました。
そんな人とおしゃべりではなく「部室を掃除する」わけです。それぞれ別のとこ
ろを片付けに集中したら沈黙にもなるでしょう。同じ空間でそれぞれ別のことを
することで主体の意識が自分に向いていて、胸の内にある気まずさに読者の意識
を引っ張ってきます。計算されたものかはわかりませんが、ひとつひとつの言葉
が絶妙に機能しあって圧倒的に心にきました。ただ1点、最後の春はちょっと違
和感がありました。卒業式って3月上~中旬なことが多くありませんか?だとし
たら春と呼ぶにはまだ少し早いのかなぁ、と。
余談ですが、この歌では相手が同性か異性かの情報がなにもありませんので、登
場人物をすべて男性にすることも可能ですね。そうすると、あら不思議、立派な
BL短歌に。読者の好みで設定を変えても核となる「主体の気まずさ」は変わらな
いのがこの歌のいいところでもありますね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐(あわのたくや)1票
【結城直 評】------------------------------------------------------------------------
情景描写に魅かれました。靴紐を結ぶために立ち止まる自分と、立ち止まらずに風景として流れていく人々。
靴紐を結ぶという行為が、風景(自分以外の人々)と自分とを隔てるかのようで素敵だと思いました。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び(虫武一俊)1票
【山階基 評】------------------------------------------------------------------------
初句・二句目は主体のモノローグ的なものでしょう。「そんなこともわからないのか」というような誰かの発話に対する応答だと想像できます。
「固結び」というのは、「そんなこともわからないのか」といわれて(しかも言い返して)しまうような主体のかたくなさを投影したものだと読みました。
「おととし」に「そんなこともわからないのか」と言われるようなことがあったけれど、今はそのときのかたくなさがほどけてきているということでしょうか。
しかし、「うつむいて」という動作、また「わかりませんが」という言い方から、まだあまり主体のなかで納得できていないようにも思えます。
僕は後者の読みをして、納得はいかないまでもかたくなさをほどこうとするという主体の意志が表れているという風に読んで、そこに魅力を感じました。
韻律の面では、四句目・五句目が非常に読みにくく感じました。語順の入れ替えなど、改善の余地が十分にあるはずです。
第4回空き地歌会 スピンオフ 評1
1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま(木下龍也)4票
【本多響乃 評】----------------------------------------------------------------------------
◆歌の構造
上の句と下の句でわけると
応募した覚えはないが抽選の/結果わたしが生まれこのざま
となる。
「応募した覚えはないが」という静かなはじまりが、
「抽選の/結果」が、上の句と下の句で分断される時点で、読者はおやおやっと思わせられる。投げ出すようにおかれた結句の「このざま」という体言止めが、この歌には憎たらしいぐらいに似合っている。
一読すっと意味が伝わり、「このざま」と言い切られることで、作者のかなしみが、ずどんと直球で届く。そして、このかなしみは、とても乾いているかなしみだと思う。おそらくそれは文体のせいだ。
◆「結」の使い方
ほかの歌が「結ぶ」からひっぱられたイメージで作られたものが多かったので、
「結果」という言葉での題詠の処理が、結果的にめだっていた。
【沼尻つた子 評】---------------------------------------------------------------------------
精子の着床率を考えると、確かに当選率の低い抽選です。
(まだ四億インパクトが)
上句は「産んでくれなんて頼んでない」などという、
反抗期少年の老成ひねくれバージョンのようです。
自身の存在を扱いながら、他人事のように淡々とした語りが魅力。
なのに、結句の「このざま」がかなり残念。
いまの「わたし」の思わしくない状況を自虐にして〆たのでしょうが、私には後味がよくありません。
せっかく抑制していた感情が、最後に来て漏れてしまったよう。
反抗期老少年(?)としては順当すぎるセリフとも言えます。
もっと捻りのある着地がみたかったですね。
でも、やさぐれた「このざま」故にこの歌に惹かれ、共感する読者もいるかもしれません。
好みのわかれるところでしょうね。
【倉野いち 評】---------------------------------------------------------------------------
パッと見て、ああいいな、と思い、全部読んでやっぱりこれがいいな、と思いました。
3億、空き地的には4億分の1の抽選でしょうか。生まれる前の記憶なんてもちろんないので、応募した覚えがないのは当然ですよね。
結句「このざま」の嘲笑い感にぞくぞくきます。
ものすごい偶然によってこの世に生まれることができたのに、人生うまくいかないことばかりで、そんな自分自身をバカにしているようにも読めるし、
または「わたし」を生み出した存在(家族とか、先祖とか、なにか血のつながりのようなもの全て)に対して「生まれたのがわたしで悪かったな、ざまあみろ」と言っているようなイメージも。
漢字の多い上の句はかしこまった印象(外ヅラというか)、平仮名だらけの下の句はぶっきらぼうな本音、というバランスも面白いです。
【高橋たまき 評】-------------------------------------------------------------------------
ひとつひとつの言葉の選び方に無駄がなくてすごい!と感動しました。
最後までたたみかけるようなスピード感が気持ち良いです。
生まれたことを「抽選の結果」としたり、
ほとんど良い意味では使われない「このざま」で「わたし」をバッサリ切り捨てたり、と
ネガティブな要素を含んだ言葉がたくさんあるのに
なぜか全くネガティブさを感じさせない不思議なお歌だと思いました。
一見卑下しているようにも見えるけれど、
ほんとうはもっと高いレベルへ向かうべき自身を
叱咤激励しているのではないのかな。
ネガティブの逆をいくような、そんな力強い印象を受けました。
うまく言えませんが……
生に対しての真摯な態度、みたいなものが
「このざま」にはたくさん詰まってそうな気がしています。
すごいなー。
好きです。
追伸
生んでなんて頼んでないしー!とリアルに言い放ち、
母とめんたいこを投げ合った実家のリビングの一部赤壁を
思いだし恥ずかしくなりました。
淡く苦くカライ思い出です。
(お歌との次元が違いすぎてごめんなさい。)
その他にも好きなお歌がいくつもありました。
どうもありがとうございました。
2012年12月5日水曜日
第4回空き地歌会 スピンオフ詠草
スピンオフ企画に参加いただいたみなさまの詠草です。
本編と同じく「結」を読み込んでいただきました。
http://akichikakai.blogspot.jp/2012/11/4.html
現在、無記名の状態で、空き地歌会参加者が1首選1首評を行っています。
来週くらいに結果発表と作者発表をする予定ですので、そちらもお楽しみに。
※第4回空き地歌会参加者のみなさまへ、1首選1首評の締切は12/8(日)24:00です。
すみません。ずっと締め切り日を間違えていました。。
12/9(日)24:00が正解です。
1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま
2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐
5 「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない
6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい
7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び
9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟
10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ
15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って
16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを
18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう
20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ
21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い
22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません
24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら
25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった
26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ
27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る
28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける
29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる
30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ
31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります
本編と同じく「結」を読み込んでいただきました。
http://akichikakai.blogspot.jp/2012/11/4.html
現在、無記名の状態で、空き地歌会参加者が1首選1首評を行っています。
来週くらいに結果発表と作者発表をする予定ですので、そちらもお楽しみに。
※第4回空き地歌会参加者のみなさまへ、1首選1首評の締切は
すみません。ずっと締め切り日を間違えていました。。
12/9(日)24:00が正解です。
1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま
2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日
3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春
4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐
5 「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない
6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい
7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ
8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び
9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟
10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝
11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる
12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末
14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ
15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って
16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら
17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを
18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実
19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう
20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ
21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い
22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて
23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません
24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら
25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった
26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ
27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る
28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける
29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる
30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ
31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります
第4回空き地歌会(本編)野比益多の評
こんにちは。野比益多です。
スタッフが全員、評をアップしたという
プレッシャーをじわじわと感じまして。
選ばせていただいた5首だけ書いてみました。
全首とかムリです!根性なしですみません。。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
まずリズムがよくて気になりました。気になって何度か読んでいるうちに、この一首の持つ、かなしみのようなものが感じられました。置屋という場所、寅の刻(午前4時あたり)という時間、マツコデラックスを想像させるマツコ、どれも世の中の王道であるとは言えない、端っこにあるものたち。世の中の端っこにいるからこそ、楽しく笑い転げて生きていく。そんな意味合いが感じられてよいなあと思いました。(こういうのって深読みになるんでしょうか?まだそのあたりの加減がよくわかっていません。。)
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
窓を殴るという行為。実際にはあまりしないだろうなあと思います。その行為と「夢」という言葉が一緒に出て来ると、ちょっと昔の青春ドラマのようなかんじがしてしまうような。。でもこの歌の持つ切実さは、こういう道具立てだからこそにじみでてくるのかもしれません。結露した窓は、内側から殴っているのでしょう。壊してしまいたいくらい叶いそうにない夢に閉じ込められている主体。でも夢は壊れない、主体は閉じ込められたまま。「跡がつくだけ」というところに、逃げ出すこともできない絶望感が感じられます。いつか夢が叶って窓ではなく扉から出られますように。
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
「真冬日の結び目きつく」という表現がおもしろいなあと思いました。歌会でもこの結び目が何かというのが話題になっていましたが、わたしはまず冬の冷たいキュッと締まった空気のことを思い浮かべました。寒さがきついということやバスというところから、冬の朝に、出勤などのためバスを待っているというところを想像し、寒さで気が引き締まって、いつもずっと頭から離れない君のことを少し忘れて、仕事もしくは考えなければならない日常のことに頭の中が集中しはじめたというふうに読みました。恋愛という非日常から寒さという現実で日常に引き戻される瞬間がよいなあと思いました。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
「結語あざやか」という言葉がおもしろいと思いました。別れた彼女から「夜」に来るメール。それはなにか用事があってしてくるメールではなく、もう少し感情がこもったもののような気がします。主体はメールが来たときに少しの期待を持ったのではないでしょうか?「結語あざやか」はいろいろな意味にとれると思いますが、この場合は、あざやかなまでに、さらりと未練なく終っているメールと読むほうが面白いような気がします。一首の中に言葉として直接に描かれているわけではないのに、主体の未練が表現されているようでよいと思いました。
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
「まだ髪を結んだ私しか知らない君」が、君と主体の距離感を心地よく表現していてとてもよいと思いました。ただ歌会中も話されたことですが、「終電の灯りをあびる」の意味が曖昧なことが残念です。前半で二人の距離感というのを示しているので、後半ではその距離感がどうなったのか?という変化(もしくは停滞)をきちんと示したほうがよいと思われます。
スタッフが全員、評をアップしたという
プレッシャーをじわじわと感じまして。
選ばせていただいた5首だけ書いてみました。
全首とかムリです!根性なしですみません。。
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A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
まずリズムがよくて気になりました。気になって何度か読んでいるうちに、この一首の持つ、かなしみのようなものが感じられました。置屋という場所、寅の刻(午前4時あたり)という時間、マツコデラックスを想像させるマツコ、どれも世の中の王道であるとは言えない、端っこにあるものたち。世の中の端っこにいるからこそ、楽しく笑い転げて生きていく。そんな意味合いが感じられてよいなあと思いました。(こういうのって深読みになるんでしょうか?まだそのあたりの加減がよくわかっていません。。)
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
窓を殴るという行為。実際にはあまりしないだろうなあと思います。その行為と「夢」という言葉が一緒に出て来ると、ちょっと昔の青春ドラマのようなかんじがしてしまうような。。でもこの歌の持つ切実さは、こういう道具立てだからこそにじみでてくるのかもしれません。結露した窓は、内側から殴っているのでしょう。壊してしまいたいくらい叶いそうにない夢に閉じ込められている主体。でも夢は壊れない、主体は閉じ込められたまま。「跡がつくだけ」というところに、逃げ出すこともできない絶望感が感じられます。いつか夢が叶って窓ではなく扉から出られますように。
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
「真冬日の結び目きつく」という表現がおもしろいなあと思いました。歌会でもこの結び目が何かというのが話題になっていましたが、わたしはまず冬の冷たいキュッと締まった空気のことを思い浮かべました。寒さがきついということやバスというところから、冬の朝に、出勤などのためバスを待っているというところを想像し、寒さで気が引き締まって、いつもずっと頭から離れない君のことを少し忘れて、仕事もしくは考えなければならない日常のことに頭の中が集中しはじめたというふうに読みました。恋愛という非日常から寒さという現実で日常に引き戻される瞬間がよいなあと思いました。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
「結語あざやか」という言葉がおもしろいと思いました。別れた彼女から「夜」に来るメール。それはなにか用事があってしてくるメールではなく、もう少し感情がこもったもののような気がします。主体はメールが来たときに少しの期待を持ったのではないでしょうか?「結語あざやか」はいろいろな意味にとれると思いますが、この場合は、あざやかなまでに、さらりと未練なく終っているメールと読むほうが面白いような気がします。一首の中に言葉として直接に描かれているわけではないのに、主体の未練が表現されているようでよいと思いました。
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
「まだ髪を結んだ私しか知らない君」が、君と主体の距離感を心地よく表現していてとてもよいと思いました。ただ歌会中も話されたことですが、「終電の灯りをあびる」の意味が曖昧なことが残念です。前半で二人の距離感というのを示しているので、後半ではその距離感がどうなったのか?という変化(もしくは停滞)をきちんと示したほうがよいと思われます。
第4回空き地歌会(本編)飯田彩乃さんの評
飯田彩乃さんの評です。
全首にいただきました。
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こんにちは。飯田彩乃です。
以下は、第四回空き地歌会の前に下準備として作成していたメモです。歌評とか偉そうなものではありません。口調がえらそうなのは、それはメモだから…! メモが少ない歌については、他の人の解釈をお聞きしようと思ってあまり書かないでおいたものです。
錚々たるメンバーの中でひとり浮いているのをひしひしと感じていますが、せっかくなので公開しておくことにしました。
★A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ
(静岡県)音羽町にある置屋(遊女を置いていた家)ときわや、寅の刻(4時ごろ)。
午前4時はマツコが働く時間ではないのでは。マツコはなぜ笑い転げているのだろう。(マツコはマツコ・デラックス…?)
上句の音のリズムはとても良いと思うが、下の句の風景が茫洋としてしまっているために仕上がりきれていないような印象。笑い転げた理由があれば良かった。
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖
「降りそそぐ」がどちらにかかるのかわかりにくくなっている。
「ほろ苦いコーヒー」「香り」「雪の結晶」「天使の砂糖」すべてが降ってくるようにも読める。
たぶんほろ苦いコーヒーの香りを楽しみながらそのコーヒーに雪のように砂糖を入れたということだろうけれど。
おそらく部屋の外で雪が降っているということも言いたいのだろうが、体言止めが二つあるなど、いかんせん表現が甘い。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る
情景が鮮やかに立ち上がるように見えて、疑問点が幾つか生まれる歌である。
ひざまずくとあるが、結界のせいで男と作中主体の関係性もしくは位置関係が見えなくなってしまった。
にっこり笑っているのはこちらを向いているからなのだろうが、だとしたらその結界は男が主体を守るためのものなのか。主体から男自身を守るための結界なのか。
物語性のある歌なので、連作の中に注意深く置けば立ち上がってくるかもしれない。
★D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい
下の句のリズムの悪さで言いさしのような感じになってしまって堅固な梱包になりきれてない印象。
ずらすときはずらすだけの意図があった方がよいのでは。
また、「梱包」はともかくとして「堅固」の響きがこなれていないように思う。だが、熟語をふたつ繋げると張りつめるように硬さが増すのは面白いと思った。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ
窓の外は夢で室内が現実ということだろうか。
内容がやや説明的な割には、説明不足のような感じ。なぜ窓の外が夢なのか。
窓が結露している必然性があまり感じられない。「ただ」が字数合わせに思える。
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる
真冬日の結び目とあるが、この結び目はなんだろう。
想像上の産物でなく、想像をするとしたらマフラーなのだが…。そこまで迎えてしまってはいけない気がするので、すなおに冬の空気の締まった様子と取ればいいのか。
俵万智の、ホームで思いだすという歌(確認できず…)の逆バージョンのような感じ。
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて
四億の意味がわからない。下の句のリズムが悪い。
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦
鼓動、首、と肉体の部分をズームアップするかたちで表現しているのは生々しさが面白い。ただそれだけに、どこか一首がぶつ切りになってしまった感触がある。甘やかにも怖いようにも取れる歌であるのに、そのぶつ切り感でどっちつかずになってしまった印象。何かもう少しヒントがあっても良いのでは。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる
主体は女性、君は男性、と読んだ。
立ち読みとあるから、主体と君はまだ付き合ってはいない。だが、その前から別れを予期している、だから「立ち読み」。構造がわかるまでがわかりにくいか。上句のひねりは面白いと思う。
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い
サンプルを本物かどうか確かめて触っている子どもの無邪気さ?
初句九音は無理があるように思うがどうか。他の部分は定型におさめているし、配慮は感じられる。
サンプルだけでも良かったのではないか。食品と書いてサンプルというルビは強引だろうか。
K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び
飛びたつ=解かれるで、たったひとつだけぽつんと取り残されたクリスマスプレゼント。来られなかった子か、来るはずのない子か。「飛びたつことのない蝶結び」が非在のかなしみを表していてうまいと思う。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き
最後の「好き」は賛否両論あるだろう。止まらない、という割にはぽろりとこぼれただけのようにも思える。
「も」は他にもほどかれたものがあるということ?
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に
自作です。夜は人が靴を脱ぐ時間であり、夜のあいだはモノは安らいでいる。だが朝がくれば、靴は靴として、靴ひもは靴ひもとして一日を過ごさねばならない。
靴ひもからほどかれて飛び立つまぼろしの蝶のことを思って詠みました。
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉
結露は昨日の言葉がかたちを持ったもの、という発想は面白いと思う。
ただ、どうして中指なのかがわからず、解釈に迷いが生じてしまった。文字を書いている?
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる
もはや食傷気味な題材を「任意の光点」という言葉でかろうじて差別化している。星座ではなく神話としたところも同様だが、違いを出そうとあれこれ工夫をした感じがする。任意なのだから「散った」は必要だろうか。
ただやっぱり最後にはありがちという結論。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか
「恋人」くらいの方が「呼ばぬ」や「結語あざやか」という結句には合う気がする。が、結句そのものがごつごつとしていてあざやかではないような。
結語を言わないことで想像の余地を残しているが、あざやかと言い切らない方がいいかもしれないと思った。
★Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる
灯りという単語だとほんのり点るイメージなので、あびるは若干の違和感が。
終電の灯りをあびるというのはヘッドライトのことだろうか、だとしたら終電が入ってきたということでこのまま帰ってしまいそう?
情景にもう一歩踏み込んでもよかったのでは。
★R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました
電車の窓を想像しながら読んだが、それ以外の窓であれば東京はゆれるだろうか。また、複数形にしたのはなぜだろう。こすったものはそれはまだ結露だろうか?
だが「手をふったようにこすった」の一瞬の動作の切り取りがうまい。遠ざかっていく東京のビル街に手を降っている姿を想像する。
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま
今週前半のTLでひもぱんとしか思えない…
文脈から言うと、「前もって」がいらない。「バカにもなりきれぬまま」が何のことを指しているのかいまいちよくわからなかった。
★T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています
しらたきを結ぶ行為というのはそんなにも恐ろしいものなのか?と思いながら調べてみたら、確かに結びしらたきは何かの幼虫のようで見ようによってはグロテスクだった。まあその前に、この歌は結ぶという手間暇のことを言っているのだろう。
「おそろしい」という形容詞を使わずに「おそろしさ」は出せなかっただろうか。
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける
告げてきた相手は男?女? リボンだし、作中主体は女性っぽい。
だが、何のリボン結びだろう。きれいな形にして整えていた自分の気持ち?そしてそれがほどけるということは、解放?(それなら初句は「離婚」であるような)(肉食系…)
結が2つ入っていることで題に振り回されてしまった? 片方が結ばれて片方がほどけて、という構造は面白いのだけれど。
全首にいただきました。
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こんにちは。飯田彩乃です。
以下は、第四回空き地歌会の前に下準備として作成していたメモです。歌評とか偉そうなものではありません。口調がえらそうなのは、それはメモだから…! メモが少ない歌については、他の人の解釈をお聞きしようと思ってあまり書かないでおいたものです。
錚々たるメンバーの中でひとり浮いているのをひしひしと感じていますが、せっかくなので公開しておくことにしました。
★A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ
(静岡県)音羽町にある置屋(遊女を置いていた家)ときわや、寅の刻(4時ごろ)。
午前4時はマツコが働く時間ではないのでは。マツコはなぜ笑い転げているのだろう。(マツコはマツコ・デラックス…?)
上句の音のリズムはとても良いと思うが、下の句の風景が茫洋としてしまっているために仕上がりきれていないような印象。笑い転げた理由があれば良かった。
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖
「降りそそぐ」がどちらにかかるのかわかりにくくなっている。
「ほろ苦いコーヒー」「香り」「雪の結晶」「天使の砂糖」すべてが降ってくるようにも読める。
たぶんほろ苦いコーヒーの香りを楽しみながらそのコーヒーに雪のように砂糖を入れたということだろうけれど。
おそらく部屋の外で雪が降っているということも言いたいのだろうが、体言止めが二つあるなど、いかんせん表現が甘い。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る
情景が鮮やかに立ち上がるように見えて、疑問点が幾つか生まれる歌である。
ひざまずくとあるが、結界のせいで男と作中主体の関係性もしくは位置関係が見えなくなってしまった。
にっこり笑っているのはこちらを向いているからなのだろうが、だとしたらその結界は男が主体を守るためのものなのか。主体から男自身を守るための結界なのか。
物語性のある歌なので、連作の中に注意深く置けば立ち上がってくるかもしれない。
★D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい
下の句のリズムの悪さで言いさしのような感じになってしまって堅固な梱包になりきれてない印象。
ずらすときはずらすだけの意図があった方がよいのでは。
また、「梱包」はともかくとして「堅固」の響きがこなれていないように思う。だが、熟語をふたつ繋げると張りつめるように硬さが増すのは面白いと思った。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ
窓の外は夢で室内が現実ということだろうか。
内容がやや説明的な割には、説明不足のような感じ。なぜ窓の外が夢なのか。
窓が結露している必然性があまり感じられない。「ただ」が字数合わせに思える。
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる
真冬日の結び目とあるが、この結び目はなんだろう。
想像上の産物でなく、想像をするとしたらマフラーなのだが…。そこまで迎えてしまってはいけない気がするので、すなおに冬の空気の締まった様子と取ればいいのか。
俵万智の、ホームで思いだすという歌(確認できず…)の逆バージョンのような感じ。
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて
四億の意味がわからない。下の句のリズムが悪い。
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦
鼓動、首、と肉体の部分をズームアップするかたちで表現しているのは生々しさが面白い。ただそれだけに、どこか一首がぶつ切りになってしまった感触がある。甘やかにも怖いようにも取れる歌であるのに、そのぶつ切り感でどっちつかずになってしまった印象。何かもう少しヒントがあっても良いのでは。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる
主体は女性、君は男性、と読んだ。
立ち読みとあるから、主体と君はまだ付き合ってはいない。だが、その前から別れを予期している、だから「立ち読み」。構造がわかるまでがわかりにくいか。上句のひねりは面白いと思う。
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い
サンプルを本物かどうか確かめて触っている子どもの無邪気さ?
初句九音は無理があるように思うがどうか。他の部分は定型におさめているし、配慮は感じられる。
サンプルだけでも良かったのではないか。食品と書いてサンプルというルビは強引だろうか。
K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び
飛びたつ=解かれるで、たったひとつだけぽつんと取り残されたクリスマスプレゼント。来られなかった子か、来るはずのない子か。「飛びたつことのない蝶結び」が非在のかなしみを表していてうまいと思う。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き
最後の「好き」は賛否両論あるだろう。止まらない、という割にはぽろりとこぼれただけのようにも思える。
「も」は他にもほどかれたものがあるということ?
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に
自作です。夜は人が靴を脱ぐ時間であり、夜のあいだはモノは安らいでいる。だが朝がくれば、靴は靴として、靴ひもは靴ひもとして一日を過ごさねばならない。
靴ひもからほどかれて飛び立つまぼろしの蝶のことを思って詠みました。
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉
結露は昨日の言葉がかたちを持ったもの、という発想は面白いと思う。
ただ、どうして中指なのかがわからず、解釈に迷いが生じてしまった。文字を書いている?
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる
もはや食傷気味な題材を「任意の光点」という言葉でかろうじて差別化している。星座ではなく神話としたところも同様だが、違いを出そうとあれこれ工夫をした感じがする。任意なのだから「散った」は必要だろうか。
ただやっぱり最後にはありがちという結論。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか
「恋人」くらいの方が「呼ばぬ」や「結語あざやか」という結句には合う気がする。が、結句そのものがごつごつとしていてあざやかではないような。
結語を言わないことで想像の余地を残しているが、あざやかと言い切らない方がいいかもしれないと思った。
★Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる
灯りという単語だとほんのり点るイメージなので、あびるは若干の違和感が。
終電の灯りをあびるというのはヘッドライトのことだろうか、だとしたら終電が入ってきたということでこのまま帰ってしまいそう?
情景にもう一歩踏み込んでもよかったのでは。
★R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました
電車の窓を想像しながら読んだが、それ以外の窓であれば東京はゆれるだろうか。また、複数形にしたのはなぜだろう。こすったものはそれはまだ結露だろうか?
だが「手をふったようにこすった」の一瞬の動作の切り取りがうまい。遠ざかっていく東京のビル街に手を降っている姿を想像する。
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま
今週前半のTLでひもぱんとしか思えない…
文脈から言うと、「前もって」がいらない。「バカにもなりきれぬまま」が何のことを指しているのかいまいちよくわからなかった。
★T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています
しらたきを結ぶ行為というのはそんなにも恐ろしいものなのか?と思いながら調べてみたら、確かに結びしらたきは何かの幼虫のようで見ようによってはグロテスクだった。まあその前に、この歌は結ぶという手間暇のことを言っているのだろう。
「おそろしい」という形容詞を使わずに「おそろしさ」は出せなかっただろうか。
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける
告げてきた相手は男?女? リボンだし、作中主体は女性っぽい。
だが、何のリボン結びだろう。きれいな形にして整えていた自分の気持ち?そしてそれがほどけるということは、解放?(それなら初句は「離婚」であるような)(肉食系…)
結が2つ入っていることで題に振り回されてしまった? 片方が結ばれて片方がほどけて、という構造は面白いのだけれど。
2012年12月4日火曜日
第4回空き地歌会(本編)田中ましろさんの評
田中ましろさんの評です。
全首にいただきました。
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ましろです。
空き地歌会の詠草についてもともと書いていたメモに
当日の内容やその後思ったことをざっくばらんに書き加えてみました。
僕個人の作歌注意点なども上から目線で好き勝手書いてますので
気分を害する話もあるかもしれませんが、そのあたりはご了承くださいませませ。
なにか気付きがありましたら幸いです~。
あ、ちなみにめっちゃ長文です。しかも改行なし。
目が疲れることを覚悟してお読みください!
☆は僕が票をいれたお歌。
A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
一読してまず「髪結いマツコ」は妖怪の類なんじゃないかと思って読みました(ちょっと前に怪談短歌が募集されてた影響もあります)。上の句で意味を持っている言葉は「置屋」と「寅の刻」。その間におかれた言葉は置き換え可能であることを考えるとどちらかというと韻律重視で選ばれた言葉なのではないかと。全体を読んだときに「笑いころげる」の理由がわからない部分をこの韻律を整えるための言葉を置き換えてうまく誘導できるともっと票があつまるなぁ、と思いました。
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
下の句で種明かしをしてしまったので歌が閉じてしまってもったいないなぁという印象です。コーヒーにさらさらいれる砂糖が雪みたい、というのもよくありそうな見立て。同じ場面でもほんのちょっと視点を変えるだけで歌は格段に生き生きすると思います。砂糖が降るシーンではなく、コーヒーに消えていく瞬間、とか。会場でも指摘されていましたが「天使」って言葉はそれこそ短歌にとっての砂糖みたいなもので、注意してつかわないと一首を甘くて飲めない缶コーヒーにしてしまいますね。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
映画などで見たことがありそうな光景なのでイメージはすぐに浮かびますが、「それで?」という感じが抜けませんでした。読者は短歌に描かれる「何か」を期待して一首に臨みます。作者が伝えたいことを探りながら読むわけです。だから作者と読者の世界からかけ離れた世界を歌うのは歌の世界に読者を引きずりこむ技術や物語性が必要となります。表面的な状況だけでは読者を引きずり込めません。もっとディテール(結界を張る目的や男との関係など)を見せて行くことで魅力的になるかもしれません。そのフィクションに読者の住む世界への風刺などが乗っかるとさらに共感が得られることになるでしょう。ちょっと求めすぎかもしれませんが。
☆D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
朝に旦那さんのネクタイを結ぶ妻ってドラマとかでよく見かけますが、そこではたいてい幸せの風景として描かれているものです。でも僕はこの歌はちょっとブラックな感情として読みたくなりました。なぜなら一首のなかでやたらと引っかかる「堅固な梱包」という表現があるから。ここは歌会でも意見が別れたところですが不穏な空気を感じさせたという点では僕は成功していると思います。表面的には笑顔でも裏側の気持ちはわからない怖さみたいな。この歌が幸せな歌だとしたらシーンも感情も平凡になってしまうので魅力は減ってしまう気がします。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
内容としては夢が壊せない理由がいまいちピンときませんでした。壊える夢と壊せない夢の区別がどういう基準でなされているかの一般的感覚がないからでしょうか。窓が結露していることもさほど必然性を感じられません。結露した窓、殴る行為、壊せない夢、そこについた跡。この4つの要素を一本の思考軸で串刺しにできたらもっと共感性が生まれたのかもしれません。すべての要素を串刺しにしなくてもよくて、結露した窓を殴る→割れる、みたいな事象の必然性がひとつでもあればと印象が大きく違ったでしょう。4句目8音は整理できたはず。「5音+2音+助詞」の構造なので余計に字余りが気になるのかなぁ。気になる字余りと気にならない字余りの差は何なのか、最近よく考えてます。(答えはまだない)
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
自作。真冬日の結び目をいろいろ考えていただいてありがとうございました。冬は手がかじかんで結び目をほどくのに時間がかかるという読みにはっとなりまし た。予想していない読みで歌に深みを与えてもらうのも歌会の醍醐味ですね。「意識の集中が動いた歌」という読みも嬉しかった。悲しいかなすぐに戻っちゃうんですけどね。
☆G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
イメージがつながるまでにずいぶんと時間がかかりました。きっと会場でこの歌を初めて見たなら票をいれることはなかったでしょう。難読だっただけに「あ、四億って精子のことか!」と気付いたその気持ちよさにやられてしまいました。四億、という数字は諸説あるんですよね。三億ならもう少し気付くのが早かったかもしれません。内容について。歌会で指摘が出ていた「下の句のリズム」と「眠りこけて」の言葉選びはたしかに改善ポイントだと思います。また、作者が伝えたい内容によりどこまで隠すのかという度合いを調整する、という点がここから学べると思います。この歌の内容をオブラートに包まず詠むと読者の半数くらいは敬遠するでしょう。読者にもよりますが普通は「汚いもの」「クサいもの」「主張が強すぎるもの」「他人事」あたりは拒否反応や無関心が生じるものです。でもうまく伝えると強さになる。その相手を引かせない温度を測ることが重要だと感じました。
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
「沈黙の時間を鼓動が数えてた」という表現はちょっと作りすぎた印象です。強引に面白く読もうと思って「頭ではなく首の結論」=「不本意な結末」として誘拐された人だったり弱みを握られてノーと言えないあなたを想像したりしましたがここに与えられている情報からの読みとしてはやはり苦しいですね。歌全体としては歌の重心が上の句と下の句に分散しているように感じました。一首における山場は1つあれば十分。31文字からどんどん言葉を削っていったときに最後に残る核はどこなのか。そこに重心を置き続けて組み立てたほうが伝えたいことを正確に伝えられる可能性が高くなるでしょう。また、その核がそもそも面白いのかという検証にも役に立つと思います。
☆I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
元カノ=未来の自分、という発見がとてもいいと思いました。そこ推しでの1票です。立ち読み、と書くだけで本と書かなくても本であることがわかるなど単語の抜き差しがきちんと計算されてるなという印象。未来はわからないものですが、好きな人の元カノを見ればそこに自分の未来はある。それを見たうえで判断しようという作者のずるさ&したたかさが表現されています。歌会では時制の指摘がされていましたが、君=恋人未満な人と考えれば付き合う前に未来を立ち読みするつもりで元カノとまず友達になった、という流れは成立すると思います。作者が結末を元カノとしている、つまりいつか別れることを前提にしているそのドライさも歌のいいアクセントになっていますね。とはいえ2句目と4句目の8音は気になります。とくに4句目「君の元カノと」が非常にまどろっこしい。内容そのままで改善されるともっと良くなる気がします。
☆J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
自分に向けて読んでたらちょっと怖いので行動からして自分の子供とかかなぁ、一読して思いました。ネクタイの結び方を知る、とは大人になることの象徴。そうすると呼びかけている先が子供であることに納得感が出ます。男の子なら自分のもとにずっと置いておきたい、という過剰な親の気持ち。女の子なら誰かの元にいくな、と。どちらにしても子離れできない親バカの歌。初句の大破調は賛否両論でしたが相手を子供だと誘導するという意味では非常によい選択だな、というのが僕の印象です。他にも候補を考えたうえでやっぱりこれが一番いいとなったのであれば良いのではないでしょうか(僕は初句の字余りに甘め!)
☆K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
この場合の蝶結びはプレゼントのリボンととるのが普通でしょうか。ひとつだけ、ということはそれ以外は飛び立った。つまり、手渡されて誰かの手によって開けられた。ツリーのしたのひとつは忘れ物か、手渡せなかったのか。どちらにせよ、さみしいことに変わりはないですね。たんたんと風景が描かれてるだけなの にその裏にあるストーリーまで無理なく連想させられるのはこの短歌が成功しているからでしょう。クリスマス、と最初に持ってきた時点で読者の頭の中にクリスマスに関するさまざまな情報を浮かばせてその読者共有のイメージ資産をうまく利用するという手法。31文字しかないのですからこれは非常に有効です。逆に、ひとつひとつの単語に世の中の人たちがどんなイメージを共通して持っているのか。意識して作歌してみるのも訓練になるかと思います。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
最後の「好き」で種明かしをしてしまったため読者の想像の余地を潰してしまった印象です。一首のなかに意味が重複する言葉が2度出てくるのは非常にもったいない。この場合は「気持ちをほどかれる」が「好き」です。さきほども短歌の重心の話を書きましたが、この歌の場合はきっと「固結びしてた気持ち」がほどかれたところに重心があるのだと思います。そこからどのように膨らませるのか。背景を深堀りするか、ほどいた人はどんな人なのかに言及するか。読者が想像していないことをぶつけてはっとさせるところに短歌の面白さが生まれるのだと思います。
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
歌会でも発言しましたが、僕は「朝」なのがしっくりきませんでした。どちらかというと朝は靴をはくイメージ、靴を脱ぐのは帰宅した時のイメージなので朝ではなく夕方や夜のほうがすっと入ってきた気がします。「ちょうちょ結び」というひらがな表記から朝の小学校の下駄箱を連想した評もありましたが、全校生徒 の足の数が幾千にもなる学校はそうはない気がしますので僕は「街」という単位で読みたいです。夜帰宅して靴を脱ぐ時は玄関のドアが閉まっているからちょうちょは玄関に留まっていて翌朝に行ってきますとドアを開けた瞬間に空へと解放されていく、という景色として読めばいいのかな。そんなふうに整理していると 最初に見たときの違和感が薄れて良い歌だなと思えてきました。
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
「昨日の言葉」の内容は読者に委ねていることがこの短歌の良いところでもあり弱点でもあるような気がします。そして僕にはこの「昨日の言葉」がまったく想 像つかなかったので票を入れられませんでした。結露、中指、滑らせる、滴る、という言葉のたたみかけで読者の読みを艶っぽい方向に持っていこうとしていることはよくわかります。むしろちょっと露骨すぎて苦手な人もいるかも、とも思うくらいです(第1回空き地歌会での自分の短歌は棚にあげていますがw)。いまのままでは「昨日の言葉」の候補は無限にあります。もうほんのちょっと絞れると僕は安心して最後まで読みきれたかもしれません。あくまで僕は、という話。
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
冬空、散る、光点、神話、ときらきらした言葉を揃えすぎて窮屈な印象を受けました。言葉をそぎ落としてどういう歌かをシンプルにすると「君が星を結んで神話を作った」ということでしょうか。油断したら「BUMP OF CHICKEN」の歌詞になってしまいそうな核をどう料理するかがこの短歌を作る上でのポイントになりますね。歌会で山階さんがおっしゃった「星を任意の光点で置き換えて甘くなってしまうのを回避しました、くらいでは僕は採れない」という言葉は同感です。きらきらした言葉が多いと感情が隠れたり甘さが目立ったりしがち。この短歌とは直接関係はないですが、友達じゃない人の誕生日を祝わったりしないよう「知らない人の幸せ」はまさに「他人事」です。(悲しいことはなぜか知らない人でも多少の共感を生むものですが…)言葉がきらきらしてる場合はその内容が本当に相 手の関心事か、客観視することが大切です。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
会場でも「結語」という言葉について議論されていましたが、僕もまずこの言葉の硬さが気になりました。でも、この一首のもったいなかった点は「結語」という言葉に読者の意識が奪われてしまったところでしょう。そこに意識を持っていかれたためにメールをもらった作者の気持ちを理解するまでに時間がかかってし まうようです。「もうすでに彼女と呼ばぬひと」を作者がどう思っているのか。まだ好きなのか、もうどうでもいいのか。登場人物の好きのベクトルがはっきりした瞬間にこの短歌の意味が開けました。僕の個人的な読みになりますが、この歌では相手が作者のことをまだ好きで、作者は相手のことをもうなんとも思ってないんだと思います。だから相手が送ってくるメールに含まれる未練たっぷりの愛情=絵文字=絵文字にも心が動くことがない作者の冷めた気持ちを「結語」と いうドライな単語で処理している。ここまで紐解けるといい歌だなぁと感じました。ただやはり「結語」にて急に硬くなるため読者の読むリズムを止めてしまう逆効果も持ち合わせています。あと初句の「もうすでに」は「もう」と「すでに」が意味の重複。3音もあまるのでうまくすれば「結語」に気をとられすぎないような見せ方の工夫もできたかもしれませんね。
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
友達以上恋人未満の歌。終電、という言葉から恋人未満でも限りなく恋人に近いところにいるような関係かなと連想しました。「終電の灯りをあびる」については電車の外で終電を見送っている状態であるという初見での読みです。恋人未満という状態を「まだ髪を結んだ私しか知らない」と言い換えるところや結論を明言せずに読者の心の中で物語を結ばせているのもこの短歌のうまいところです。でもこの一首は「終電の灯りをあびる」の読みが確定できないという弱点も持ち合わせています。たしかに「灯りをあびる」ということは二人の立っている場所は暗い場所でそこに光が降り注いでいる印象を持つので駅よりも踏み切りや線路 沿いの道のほうがしっくりは来るのですが、二人の居場所の決定的証拠にはならず。結果としてこの二人が終電に乗れたのかどうか確信できません。恋人未満の 二人が恋人未満のままもどかしく帰っていく、という結末だってありえるわけです。まあ、そこは読者次第。読者それぞれに理想のストーリーを描けばいいと言えばそこまでですが、「どちらもある」と気付かれてしまうのは読者を不安にさせてしまう要素になってしまうのではないかと思います。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
結露した窓をこすったらそこに残るのは何なのでしょう。というのが最初に引っかかりました。いったいどこで東京たちがゆれていたのか。空き地会場では「こすった(後の)結露には東京たちがゆれていました」という読みが多かったのですが「東京たちがゆれていた結露をこすった」という読みもありえるのではないか、と。これはおそらく登場する動詞がすべて過去形のため時制が区別できなくなっているせいでしょう。細かい話ですが「手をふったようにこすった」は文法的に少しおかしいような気がします。音数は無視しますが「手をふるようにこすった」と書くほうが自然じゃないでしょうか(間違ってたらすみません…)。 と、僕は細かいところでつまづいたので票を入れなかったわけですが会場でみなさんの評を聞いて描かれたシーンはとても綺麗だなと感じました。言葉がもうす こしすんなりと入ってくる言葉や語順だったら採っていたように思います。
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
バカは相対的に決まるものです。何に対してバカなのかが無意識にわかると特に気にはならないのですが、この一首ではその対象がはっきりしておらず心許ない印象です。そのためか下の句の意味をとるのが難しくなっています。バカになりきれない、ということはバカを演じようとしていてそれがうまくいってないとい 状況。バカになったらどんないいことがあるのか、そこが上の句といまいち結びつかなくて困りました。ああ、そういう事情だったらたしかにバカになりたいよね、と思えることが上の句で匂わされていたらよかったのかなぁ。(匂わせる、と書いたのは事情をそのまま書くと説明的になる危険もあるかなと思ったからです)この一首は作者の中では筋が通っているのだと思います。ただそれが読者には紐解けなかった。客観視はし過ぎるくらいがちょうどいいんじゃないかなとも 思います。
T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
関西じゃあんまりしらたきって食べないよ、と言ったらそんなことないよって関西人からつっこまれました。作者は関東人だって言い切ったけど関西人でした。 少なくとも僕はあんまり食べる習慣がなかったってことでお許しください。詠草の話、結んだものも売っているしらたきをわざわざ結ぶ、というのは普通に考えたら料理に手間暇かけるタイプの女性。とてもよい妻になるかと思うのですが作者はそれを「おそろしい」という。ここの捩れに僕はなるほど!と思えるほどの 納得を持てませんでした。「おそろしい」を導いているのは実は「わざわざ」という言葉です。「しらたきをわざわざ結ぶ」「メールでもわざわざ笑う」「注連 縄をわざわざ結ぶ」。もちろん「しらたき」というモチーフの選び方は秀逸だと思うのですがせっかくのモチーフ以外のところでつながってしまったのが敢えて 言うなら残念ポイント。会場では「おそろしい」を使わずに、という発言をしましたがいま冷静に読み返すと「わざわざ」を使わずに二句目までにもっとおそろしいと思える状況を置いたほうが良くなりそうな気がしました。(元の歌もいい歌だと思うので厳しめに書いてます!)
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
状況を伝えただけになっちゃったかな、という印象です。リボン結びが何を示しているのかは、結婚から連想すると赤い糸などとつながるものでしょうか。このリボンはきっと赤だろうと感じるのは「結婚」の効果だと思います。会場でも指摘したのが「告げられた」と「ふいに」の時系列に少し違和感を覚えた点。「ふいに」は「不意に」なので本人の意識の外で起こることです。なのに「告げられて」意識した状態でほどけたところに違和感があったのでしょう。細かな話ですが、それでもみんな日本語ネイティブなので違和感すら無意識下で生まれてしまいます。たとえば「リボン結びがふいにほどける」ところからこの短歌が始まっていたら、どんな話になるのか。下の句の77を冒頭に持ってきて大きく構造を変える推敲は個人的にはよく使っています。(そのまま初句7音にするというこ とではなく韻律は整えなおしますが)
そんなかんじで。
長文にお付き合い、ありがとうございました~。
全首にいただきました。
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ましろです。
空き地歌会の詠草についてもともと書いていたメモに
当日の内容やその後思ったことをざっくばらんに書き加えてみました。
僕個人の作歌注意点なども上から目線で好き勝手書いてますので
気分を害する話もあるかもしれませんが、そのあたりはご了承くださいませませ。
なにか気付きがありましたら幸いです~。
あ、ちなみにめっちゃ長文です。しかも改行なし。
目が疲れることを覚悟してお読みください!
☆は僕が票をいれたお歌。
A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
一読してまず「髪結いマツコ」は妖怪の類なんじゃないかと思って読みました(ちょっと前に怪談短歌が募集されてた影響もあります)。上の句で意味を持っている言葉は「置屋」と「寅の刻」。その間におかれた言葉は置き換え可能であることを考えるとどちらかというと韻律重視で選ばれた言葉なのではないかと。全体を読んだときに「笑いころげる」の理由がわからない部分をこの韻律を整えるための言葉を置き換えてうまく誘導できるともっと票があつまるなぁ、と思いました。
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
下の句で種明かしをしてしまったので歌が閉じてしまってもったいないなぁという印象です。コーヒーにさらさらいれる砂糖が雪みたい、というのもよくありそうな見立て。同じ場面でもほんのちょっと視点を変えるだけで歌は格段に生き生きすると思います。砂糖が降るシーンではなく、コーヒーに消えていく瞬間、とか。会場でも指摘されていましたが「天使」って言葉はそれこそ短歌にとっての砂糖みたいなもので、注意してつかわないと一首を甘くて飲めない缶コーヒーにしてしまいますね。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
映画などで見たことがありそうな光景なのでイメージはすぐに浮かびますが、「それで?」という感じが抜けませんでした。読者は短歌に描かれる「何か」を期待して一首に臨みます。作者が伝えたいことを探りながら読むわけです。だから作者と読者の世界からかけ離れた世界を歌うのは歌の世界に読者を引きずりこむ技術や物語性が必要となります。表面的な状況だけでは読者を引きずり込めません。もっとディテール(結界を張る目的や男との関係など)を見せて行くことで魅力的になるかもしれません。そのフィクションに読者の住む世界への風刺などが乗っかるとさらに共感が得られることになるでしょう。ちょっと求めすぎかもしれませんが。
☆D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
朝に旦那さんのネクタイを結ぶ妻ってドラマとかでよく見かけますが、そこではたいてい幸せの風景として描かれているものです。でも僕はこの歌はちょっとブラックな感情として読みたくなりました。なぜなら一首のなかでやたらと引っかかる「堅固な梱包」という表現があるから。ここは歌会でも意見が別れたところですが不穏な空気を感じさせたという点では僕は成功していると思います。表面的には笑顔でも裏側の気持ちはわからない怖さみたいな。この歌が幸せな歌だとしたらシーンも感情も平凡になってしまうので魅力は減ってしまう気がします。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
内容としては夢が壊せない理由がいまいちピンときませんでした。壊える夢と壊せない夢の区別がどういう基準でなされているかの一般的感覚がないからでしょうか。窓が結露していることもさほど必然性を感じられません。結露した窓、殴る行為、壊せない夢、そこについた跡。この4つの要素を一本の思考軸で串刺しにできたらもっと共感性が生まれたのかもしれません。すべての要素を串刺しにしなくてもよくて、結露した窓を殴る→割れる、みたいな事象の必然性がひとつでもあればと印象が大きく違ったでしょう。4句目8音は整理できたはず。「5音+2音+助詞」の構造なので余計に字余りが気になるのかなぁ。気になる字余りと気にならない字余りの差は何なのか、最近よく考えてます。(答えはまだない)
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
自作。真冬日の結び目をいろいろ考えていただいてありがとうございました。冬は手がかじかんで結び目をほどくのに時間がかかるという読みにはっとなりまし た。予想していない読みで歌に深みを与えてもらうのも歌会の醍醐味ですね。「意識の集中が動いた歌」という読みも嬉しかった。悲しいかなすぐに戻っちゃうんですけどね。
☆G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
イメージがつながるまでにずいぶんと時間がかかりました。きっと会場でこの歌を初めて見たなら票をいれることはなかったでしょう。難読だっただけに「あ、四億って精子のことか!」と気付いたその気持ちよさにやられてしまいました。四億、という数字は諸説あるんですよね。三億ならもう少し気付くのが早かったかもしれません。内容について。歌会で指摘が出ていた「下の句のリズム」と「眠りこけて」の言葉選びはたしかに改善ポイントだと思います。また、作者が伝えたい内容によりどこまで隠すのかという度合いを調整する、という点がここから学べると思います。この歌の内容をオブラートに包まず詠むと読者の半数くらいは敬遠するでしょう。読者にもよりますが普通は「汚いもの」「クサいもの」「主張が強すぎるもの」「他人事」あたりは拒否反応や無関心が生じるものです。でもうまく伝えると強さになる。その相手を引かせない温度を測ることが重要だと感じました。
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
「沈黙の時間を鼓動が数えてた」という表現はちょっと作りすぎた印象です。強引に面白く読もうと思って「頭ではなく首の結論」=「不本意な結末」として誘拐された人だったり弱みを握られてノーと言えないあなたを想像したりしましたがここに与えられている情報からの読みとしてはやはり苦しいですね。歌全体としては歌の重心が上の句と下の句に分散しているように感じました。一首における山場は1つあれば十分。31文字からどんどん言葉を削っていったときに最後に残る核はどこなのか。そこに重心を置き続けて組み立てたほうが伝えたいことを正確に伝えられる可能性が高くなるでしょう。また、その核がそもそも面白いのかという検証にも役に立つと思います。
☆I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
元カノ=未来の自分、という発見がとてもいいと思いました。そこ推しでの1票です。立ち読み、と書くだけで本と書かなくても本であることがわかるなど単語の抜き差しがきちんと計算されてるなという印象。未来はわからないものですが、好きな人の元カノを見ればそこに自分の未来はある。それを見たうえで判断しようという作者のずるさ&したたかさが表現されています。歌会では時制の指摘がされていましたが、君=恋人未満な人と考えれば付き合う前に未来を立ち読みするつもりで元カノとまず友達になった、という流れは成立すると思います。作者が結末を元カノとしている、つまりいつか別れることを前提にしているそのドライさも歌のいいアクセントになっていますね。とはいえ2句目と4句目の8音は気になります。とくに4句目「君の元カノと」が非常にまどろっこしい。内容そのままで改善されるともっと良くなる気がします。
☆J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
自分に向けて読んでたらちょっと怖いので行動からして自分の子供とかかなぁ、一読して思いました。ネクタイの結び方を知る、とは大人になることの象徴。そうすると呼びかけている先が子供であることに納得感が出ます。男の子なら自分のもとにずっと置いておきたい、という過剰な親の気持ち。女の子なら誰かの元にいくな、と。どちらにしても子離れできない親バカの歌。初句の大破調は賛否両論でしたが相手を子供だと誘導するという意味では非常によい選択だな、というのが僕の印象です。他にも候補を考えたうえでやっぱりこれが一番いいとなったのであれば良いのではないでしょうか(僕は初句の字余りに甘め!)
☆K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
この場合の蝶結びはプレゼントのリボンととるのが普通でしょうか。ひとつだけ、ということはそれ以外は飛び立った。つまり、手渡されて誰かの手によって開けられた。ツリーのしたのひとつは忘れ物か、手渡せなかったのか。どちらにせよ、さみしいことに変わりはないですね。たんたんと風景が描かれてるだけなの にその裏にあるストーリーまで無理なく連想させられるのはこの短歌が成功しているからでしょう。クリスマス、と最初に持ってきた時点で読者の頭の中にクリスマスに関するさまざまな情報を浮かばせてその読者共有のイメージ資産をうまく利用するという手法。31文字しかないのですからこれは非常に有効です。逆に、ひとつひとつの単語に世の中の人たちがどんなイメージを共通して持っているのか。意識して作歌してみるのも訓練になるかと思います。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
最後の「好き」で種明かしをしてしまったため読者の想像の余地を潰してしまった印象です。一首のなかに意味が重複する言葉が2度出てくるのは非常にもったいない。この場合は「気持ちをほどかれる」が「好き」です。さきほども短歌の重心の話を書きましたが、この歌の場合はきっと「固結びしてた気持ち」がほどかれたところに重心があるのだと思います。そこからどのように膨らませるのか。背景を深堀りするか、ほどいた人はどんな人なのかに言及するか。読者が想像していないことをぶつけてはっとさせるところに短歌の面白さが生まれるのだと思います。
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
歌会でも発言しましたが、僕は「朝」なのがしっくりきませんでした。どちらかというと朝は靴をはくイメージ、靴を脱ぐのは帰宅した時のイメージなので朝ではなく夕方や夜のほうがすっと入ってきた気がします。「ちょうちょ結び」というひらがな表記から朝の小学校の下駄箱を連想した評もありましたが、全校生徒 の足の数が幾千にもなる学校はそうはない気がしますので僕は「街」という単位で読みたいです。夜帰宅して靴を脱ぐ時は玄関のドアが閉まっているからちょうちょは玄関に留まっていて翌朝に行ってきますとドアを開けた瞬間に空へと解放されていく、という景色として読めばいいのかな。そんなふうに整理していると 最初に見たときの違和感が薄れて良い歌だなと思えてきました。
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
「昨日の言葉」の内容は読者に委ねていることがこの短歌の良いところでもあり弱点でもあるような気がします。そして僕にはこの「昨日の言葉」がまったく想 像つかなかったので票を入れられませんでした。結露、中指、滑らせる、滴る、という言葉のたたみかけで読者の読みを艶っぽい方向に持っていこうとしていることはよくわかります。むしろちょっと露骨すぎて苦手な人もいるかも、とも思うくらいです(第1回空き地歌会での自分の短歌は棚にあげていますがw)。いまのままでは「昨日の言葉」の候補は無限にあります。もうほんのちょっと絞れると僕は安心して最後まで読みきれたかもしれません。あくまで僕は、という話。
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
冬空、散る、光点、神話、ときらきらした言葉を揃えすぎて窮屈な印象を受けました。言葉をそぎ落としてどういう歌かをシンプルにすると「君が星を結んで神話を作った」ということでしょうか。油断したら「BUMP OF CHICKEN」の歌詞になってしまいそうな核をどう料理するかがこの短歌を作る上でのポイントになりますね。歌会で山階さんがおっしゃった「星を任意の光点で置き換えて甘くなってしまうのを回避しました、くらいでは僕は採れない」という言葉は同感です。きらきらした言葉が多いと感情が隠れたり甘さが目立ったりしがち。この短歌とは直接関係はないですが、友達じゃない人の誕生日を祝わったりしないよう「知らない人の幸せ」はまさに「他人事」です。(悲しいことはなぜか知らない人でも多少の共感を生むものですが…)言葉がきらきらしてる場合はその内容が本当に相 手の関心事か、客観視することが大切です。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
会場でも「結語」という言葉について議論されていましたが、僕もまずこの言葉の硬さが気になりました。でも、この一首のもったいなかった点は「結語」という言葉に読者の意識が奪われてしまったところでしょう。そこに意識を持っていかれたためにメールをもらった作者の気持ちを理解するまでに時間がかかってし まうようです。「もうすでに彼女と呼ばぬひと」を作者がどう思っているのか。まだ好きなのか、もうどうでもいいのか。登場人物の好きのベクトルがはっきりした瞬間にこの短歌の意味が開けました。僕の個人的な読みになりますが、この歌では相手が作者のことをまだ好きで、作者は相手のことをもうなんとも思ってないんだと思います。だから相手が送ってくるメールに含まれる未練たっぷりの愛情=絵文字=絵文字にも心が動くことがない作者の冷めた気持ちを「結語」と いうドライな単語で処理している。ここまで紐解けるといい歌だなぁと感じました。ただやはり「結語」にて急に硬くなるため読者の読むリズムを止めてしまう逆効果も持ち合わせています。あと初句の「もうすでに」は「もう」と「すでに」が意味の重複。3音もあまるのでうまくすれば「結語」に気をとられすぎないような見せ方の工夫もできたかもしれませんね。
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
友達以上恋人未満の歌。終電、という言葉から恋人未満でも限りなく恋人に近いところにいるような関係かなと連想しました。「終電の灯りをあびる」については電車の外で終電を見送っている状態であるという初見での読みです。恋人未満という状態を「まだ髪を結んだ私しか知らない」と言い換えるところや結論を明言せずに読者の心の中で物語を結ばせているのもこの短歌のうまいところです。でもこの一首は「終電の灯りをあびる」の読みが確定できないという弱点も持ち合わせています。たしかに「灯りをあびる」ということは二人の立っている場所は暗い場所でそこに光が降り注いでいる印象を持つので駅よりも踏み切りや線路 沿いの道のほうがしっくりは来るのですが、二人の居場所の決定的証拠にはならず。結果としてこの二人が終電に乗れたのかどうか確信できません。恋人未満の 二人が恋人未満のままもどかしく帰っていく、という結末だってありえるわけです。まあ、そこは読者次第。読者それぞれに理想のストーリーを描けばいいと言えばそこまでですが、「どちらもある」と気付かれてしまうのは読者を不安にさせてしまう要素になってしまうのではないかと思います。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
結露した窓をこすったらそこに残るのは何なのでしょう。というのが最初に引っかかりました。いったいどこで東京たちがゆれていたのか。空き地会場では「こすった(後の)結露には東京たちがゆれていました」という読みが多かったのですが「東京たちがゆれていた結露をこすった」という読みもありえるのではないか、と。これはおそらく登場する動詞がすべて過去形のため時制が区別できなくなっているせいでしょう。細かい話ですが「手をふったようにこすった」は文法的に少しおかしいような気がします。音数は無視しますが「手をふるようにこすった」と書くほうが自然じゃないでしょうか(間違ってたらすみません…)。 と、僕は細かいところでつまづいたので票を入れなかったわけですが会場でみなさんの評を聞いて描かれたシーンはとても綺麗だなと感じました。言葉がもうす こしすんなりと入ってくる言葉や語順だったら採っていたように思います。
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
バカは相対的に決まるものです。何に対してバカなのかが無意識にわかると特に気にはならないのですが、この一首ではその対象がはっきりしておらず心許ない印象です。そのためか下の句の意味をとるのが難しくなっています。バカになりきれない、ということはバカを演じようとしていてそれがうまくいってないとい 状況。バカになったらどんないいことがあるのか、そこが上の句といまいち結びつかなくて困りました。ああ、そういう事情だったらたしかにバカになりたいよね、と思えることが上の句で匂わされていたらよかったのかなぁ。(匂わせる、と書いたのは事情をそのまま書くと説明的になる危険もあるかなと思ったからです)この一首は作者の中では筋が通っているのだと思います。ただそれが読者には紐解けなかった。客観視はし過ぎるくらいがちょうどいいんじゃないかなとも 思います。
T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
関西じゃあんまりしらたきって食べないよ、と言ったらそんなことないよって関西人からつっこまれました。作者は関東人だって言い切ったけど関西人でした。 少なくとも僕はあんまり食べる習慣がなかったってことでお許しください。詠草の話、結んだものも売っているしらたきをわざわざ結ぶ、というのは普通に考えたら料理に手間暇かけるタイプの女性。とてもよい妻になるかと思うのですが作者はそれを「おそろしい」という。ここの捩れに僕はなるほど!と思えるほどの 納得を持てませんでした。「おそろしい」を導いているのは実は「わざわざ」という言葉です。「しらたきをわざわざ結ぶ」「メールでもわざわざ笑う」「注連 縄をわざわざ結ぶ」。もちろん「しらたき」というモチーフの選び方は秀逸だと思うのですがせっかくのモチーフ以外のところでつながってしまったのが敢えて 言うなら残念ポイント。会場では「おそろしい」を使わずに、という発言をしましたがいま冷静に読み返すと「わざわざ」を使わずに二句目までにもっとおそろしいと思える状況を置いたほうが良くなりそうな気がしました。(元の歌もいい歌だと思うので厳しめに書いてます!)
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
状況を伝えただけになっちゃったかな、という印象です。リボン結びが何を示しているのかは、結婚から連想すると赤い糸などとつながるものでしょうか。このリボンはきっと赤だろうと感じるのは「結婚」の効果だと思います。会場でも指摘したのが「告げられた」と「ふいに」の時系列に少し違和感を覚えた点。「ふいに」は「不意に」なので本人の意識の外で起こることです。なのに「告げられて」意識した状態でほどけたところに違和感があったのでしょう。細かな話ですが、それでもみんな日本語ネイティブなので違和感すら無意識下で生まれてしまいます。たとえば「リボン結びがふいにほどける」ところからこの短歌が始まっていたら、どんな話になるのか。下の句の77を冒頭に持ってきて大きく構造を変える推敲は個人的にはよく使っています。(そのまま初句7音にするというこ とではなく韻律は整えなおしますが)
そんなかんじで。
長文にお付き合い、ありがとうございました~。
第4回空き地歌会(本編)天国ななおさんの評
天国ななおさんの評です。
全首にいただきました。
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ななおが事前に用意していた感想です。
選んだ短歌には★をつけました。
加えて、歌会当日思ったことを括弧書きしています。
A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
上句の音の使い方は面白いけれど、イメージが固まっているマツコを持ってくるところが残念と思ったけれど、それがフックになっているのは間違いないので難しいところですね。こういうリアルな歌会ではよいけれど、旬の人や物を使うと後で読んで面白くなくなることもあるので。
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
ほろ苦いと限定しないでもっと違う表現でどんなコーヒーかを言えるといいかも、降りそそぐという表現は砂糖よりもミルクっぽいのが残念です、リズム感は悪くないけれど下句の言い切りもひねりがほしいと思いました。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
パンッと扇子を開いてさささささーと結界を張る情景は陰陽師っぽく浮かぶのだけれど、だからどうなの、どう思うの、というところが無いのが残念です。
D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
ネクタイの「堅固な梱包」という表現は面白いけれど、句またがりのリズムの悪さが気になってしまいます。作者が結んで、いってらっしゃい頑張ってという気持ちと受け止めました。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
壊せない夢イコールガラス窓という連想になってしまうので、そこにある結露はどういう意味があたえられているのかわからなかったです。単に跡がつくと言いたいだけなら弱いと思うのです
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
「真冬日の結び目」の意味がとりにくいけれど、よい感じの短歌だと思いました。わざわざ「すこし」と言わなくても、バスを待つ間なのだから短いあいだのことだとわかると思います。
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
「四億」は文字数からいって「しおく」と読むのかな ? 結句の字足らずはもったいないです。
四億ということで射精した精子のことだと思われますが、「結ばれたもの」というから、身体の中で眠るのかと思うのに、てのひらなのがよくわからない。(精子までわかっていたのに、使用後のコンドームを結んでてのひらにのせるということまではわかってませんでした(笑))
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
選ぼうか最後まで悩んだのですが、かなり言い回しは考えられているけれど、縦に首を振る=イエスの内容は使われてそうなフレーズなので、惜しい感じがしました。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
面白い視点なのだけど、「買うように」と言う表現や全体のリズムの悪さが気になります。元カノなら友達ではなく同列に彼女とか、付き合う、みたいな結論にした方がよかったかも。
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
今回は57577のリズムから外れた歌が多いような気がします。謎なのだけどそこが魅力的という意見もあるかもしれません。僕にはわかりません。(ネクタイからの連想で子供のことを言っていると読めませんでしたが、言われてみればそれだと少し話が通る気がしました。男の子と女の子、お母さんとお父さん、といういろいろな組み合わせができるのは、なるほどと思いました)
★K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
ひとつだけと言ってしまっているので、複数個あった残りという感じがありますが、あげたかった人が居なくなったのは伝わるし、蝶結びが開けられない飛び立てないという表現がうまいと思いました。華やかなのにさびしい感じの対比もよいです。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
これは私の歌なので言いたかったことを。毎回甘い短歌を作っているので今回もそれで挑戦してみました、撃沈でしたけれど(笑)。上句の「固結びしてた気持ちもほどかれて」が浮かんで、下句をさんざん考えたのだけど、ここまでで思考切れでした。「気持ちも」の「も」のもうひとつ固く結んでいたのは唇で、キスして開いたから口から言葉が止まらない、みたいな短歌にしたかったのですが、表現が足りていなく、当日も誰もそこには気がついてもらえませんでした(笑)。もっとエロい短歌にすればよかったです。次回は全力を出し切って王様をねらいます。
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
靴ひもがほどかれるのは帰宅するときなので、朝というのは合ってない感じががします。大事なそこに気持ちが合わなかったのが残念です。
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
滴ってで気持ちも表せているけれど、文字を書くという行為はありがちな感じがしてしまうので、もうひとひねり欲しいと思いました。(中指で滴ってだからエロい歌なのではないかという読みがあったのが素晴らしかったです)
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
もともと星座は神話の話が多いので、あえて君がつくるものは違う方がよい気がしました。結ぶ行為も、指を指す感じなのか具体的にイメージしにくいのと、全部ひっくるめて星座のことしか言えてないのが残念です。
★P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
「呼べぬ」ではなく「呼ばぬ」というところが、自分から振ったのがわかるし上手いです。あえて夜と限定して対比みたいにあざやかというところもよいと思います。でも、振ったとしたらそんな結語にはならない気もするのですけれど。
★ Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
リズムの悪さを補うくらい上句がうまいと思っちゃいました。終電の灯りは言い過ぎかと思いつつも、あびるということで行ってしまったことが分かって、そこもうまいなーと思います。(歌会中に灯りは電車のヘッドライトだから灯りとしたのではないかと思い、ホームではなく線路際や踏切など、完璧に見送る場所に二人でいる、つまり今夜知ることになるという展開かと思いました)
★R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
結露シリーズでは、これが一番良かったです。別れの手のふり方で拭うのと、結露の水滴と涙で滲むゆれるということが、悲しい別れだという感じをさせます。
時間は書いてない電車だとも書いてないけれど、夜で電車で、きっと遠くに離れる感じが伝わります。(歌会上では電車に乗っているという意見がでなかったので、つい横から口をはさんでしまいました)
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
これもエッチな話しなのかと思いつつ、バカにもなりきれないという部分がよくわかりませんでした。
★T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
これは「おそろしい女」の表現が秀逸で、じゃなんで暮らしているのと言いたい。わざわざという言い回しも好きだし、しらたきを結ぶにあるある感もあってよいですね。
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
何にしてあったリボン結びなのでしょう? そのあたりがよくわからない。 告げられたからほどけるのだから「不意」ってことではないように思います。
全首にいただきました。
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ななおが事前に用意していた感想です。
選んだ短歌には★をつけました。
加えて、歌会当日思ったことを括弧書きしています。
A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
上句の音の使い方は面白いけれど、イメージが固まっているマツコを持ってくるところが残念と思ったけれど、それがフックになっているのは間違いないので難しいところですね。こういうリアルな歌会ではよいけれど、旬の人や物を使うと後で読んで面白くなくなることもあるので。
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
ほろ苦いと限定しないでもっと違う表現でどんなコーヒーかを言えるといいかも、降りそそぐという表現は砂糖よりもミルクっぽいのが残念です、リズム感は悪くないけれど下句の言い切りもひねりがほしいと思いました。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
パンッと扇子を開いてさささささーと結界を張る情景は陰陽師っぽく浮かぶのだけれど、だからどうなの、どう思うの、というところが無いのが残念です。
D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
ネクタイの「堅固な梱包」という表現は面白いけれど、句またがりのリズムの悪さが気になってしまいます。作者が結んで、いってらっしゃい頑張ってという気持ちと受け止めました。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
壊せない夢イコールガラス窓という連想になってしまうので、そこにある結露はどういう意味があたえられているのかわからなかったです。単に跡がつくと言いたいだけなら弱いと思うのです
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
「真冬日の結び目」の意味がとりにくいけれど、よい感じの短歌だと思いました。わざわざ「すこし」と言わなくても、バスを待つ間なのだから短いあいだのことだとわかると思います。
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
「四億」は文字数からいって「しおく」と読むのかな ? 結句の字足らずはもったいないです。
四億ということで射精した精子のことだと思われますが、「結ばれたもの」というから、身体の中で眠るのかと思うのに、てのひらなのがよくわからない。(精子までわかっていたのに、使用後のコンドームを結んでてのひらにのせるということまではわかってませんでした(笑))
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
選ぼうか最後まで悩んだのですが、かなり言い回しは考えられているけれど、縦に首を振る=イエスの内容は使われてそうなフレーズなので、惜しい感じがしました。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
面白い視点なのだけど、「買うように」と言う表現や全体のリズムの悪さが気になります。元カノなら友達ではなく同列に彼女とか、付き合う、みたいな結論にした方がよかったかも。
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
今回は57577のリズムから外れた歌が多いような気がします。謎なのだけどそこが魅力的という意見もあるかもしれません。僕にはわかりません。(ネクタイからの連想で子供のことを言っていると読めませんでしたが、言われてみればそれだと少し話が通る気がしました。男の子と女の子、お母さんとお父さん、といういろいろな組み合わせができるのは、なるほどと思いました)
★K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
ひとつだけと言ってしまっているので、複数個あった残りという感じがありますが、あげたかった人が居なくなったのは伝わるし、蝶結びが開けられない飛び立てないという表現がうまいと思いました。華やかなのにさびしい感じの対比もよいです。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
これは私の歌なので言いたかったことを。毎回甘い短歌を作っているので今回もそれで挑戦してみました、撃沈でしたけれど(笑)。上句の「固結びしてた気持ちもほどかれて」が浮かんで、下句をさんざん考えたのだけど、ここまでで思考切れでした。「気持ちも」の「も」のもうひとつ固く結んでいたのは唇で、キスして開いたから口から言葉が止まらない、みたいな短歌にしたかったのですが、表現が足りていなく、当日も誰もそこには気がついてもらえませんでした(笑)。もっとエロい短歌にすればよかったです。次回は全力を出し切って王様をねらいます。
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
靴ひもがほどかれるのは帰宅するときなので、朝というのは合ってない感じががします。大事なそこに気持ちが合わなかったのが残念です。
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
滴ってで気持ちも表せているけれど、文字を書くという行為はありがちな感じがしてしまうので、もうひとひねり欲しいと思いました。(中指で滴ってだからエロい歌なのではないかという読みがあったのが素晴らしかったです)
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
もともと星座は神話の話が多いので、あえて君がつくるものは違う方がよい気がしました。結ぶ行為も、指を指す感じなのか具体的にイメージしにくいのと、全部ひっくるめて星座のことしか言えてないのが残念です。
★P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
「呼べぬ」ではなく「呼ばぬ」というところが、自分から振ったのがわかるし上手いです。あえて夜と限定して対比みたいにあざやかというところもよいと思います。でも、振ったとしたらそんな結語にはならない気もするのですけれど。
★ Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
リズムの悪さを補うくらい上句がうまいと思っちゃいました。終電の灯りは言い過ぎかと思いつつも、あびるということで行ってしまったことが分かって、そこもうまいなーと思います。(歌会中に灯りは電車のヘッドライトだから灯りとしたのではないかと思い、ホームではなく線路際や踏切など、完璧に見送る場所に二人でいる、つまり今夜知ることになるという展開かと思いました)
★R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
結露シリーズでは、これが一番良かったです。別れの手のふり方で拭うのと、結露の水滴と涙で滲むゆれるということが、悲しい別れだという感じをさせます。
時間は書いてない電車だとも書いてないけれど、夜で電車で、きっと遠くに離れる感じが伝わります。(歌会上では電車に乗っているという意見がでなかったので、つい横から口をはさんでしまいました)
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
これもエッチな話しなのかと思いつつ、バカにもなりきれないという部分がよくわかりませんでした。
★T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
これは「おそろしい女」の表現が秀逸で、じゃなんで暮らしているのと言いたい。わざわざという言い回しも好きだし、しらたきを結ぶにあるある感もあってよいですね。
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
何にしてあったリボン結びなのでしょう? そのあたりがよくわからない。 告げられたからほどけるのだから「不意」ってことではないように思います。
第4回空き地歌会(本編)本多響乃さんの評
本多響乃さんの評です。
全首にいただきました。
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今回は、事前に21首分の評のメモをつくりました。
****のあとは、歌会の後で思ったこと。★が本多の5首選です。
★A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
「結」の題詠で、髪結いをもってきたところはお手柄。
置屋、寅の刻、という古めかしい語と、マツコという固有名詞はちょっと時代がそぐわない気がします。
上の句、下の句の両方が体言止めの場合、短歌としては、ぶつぶつした感じを与えてしまいます。
**********
歌会で音読したときの、音の響きのよさが快感でした。
(黙読で、5首選をしたときには気づかなかったポイントでした。)
「寅の刻」(午前4時ごろ)は、置屋で髪結いが笑いころげるには時間が変、という指摘がありましたが、わたしは、これから歌舞伎をみにいく芸者が、おしゃ れをしている場面だったらありうるんじゃないかなぁ、と思いました。(電気のない江戸時代の歌舞伎はかなり早朝から始まったはずなので。)
マツコがマツコ・デラックスを踏まえているのでは、という指摘にはおおお、と。
(家にテレビがないので、テレビネタだとよくわからないのです……。)
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
香り/降り/そそぐという動詞の連続が気になります。
コーヒーが香って、なおかつコーヒーが降りそそぐ、というように読めてしまいます。
作者はいま、室内にいて、目の前にコーヒーがあり、窓外には、雪が降っている、という景として読みましたが……。
下の句の「雪の結晶天使の砂糖」というたたみかけは、体言止めの連続なので、とてもぶつぶつした感じ。
雪の結晶というものは、天使の使う砂糖のようなものだよ、ということが作者のいいたいことなのであれば、
初句の「ほろ苦い」ははぶいて下の句の世界をゆったり歌ったほうがいいように思います。
**********
あおいさんは筆名のつけ方もロマンチックで、ロマンチックな作風なんですよね。
ロマンチックな路線をきわめるのであれば、使い古されたロマンチックな題材や、ロマンチックな表現をどれだけ捨てられるかがポイントだと、個人的には思っています。作者だけがロマンチックになっていると、読者はロマンチックになれないのです。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
「結」の題詠で「結界」はお見事。
落語家が舞台上にあがったところの描写として読みました。
ただ、その場合、「ひざまずき」という動詞は誤用ではないでしょうか。
「にっこり笑って」という表現も、ややありきたり。8音でもたつくのももったいないと思います。
「笑う」に「にっこり」はあらかじめ含まれていると、私は思います。
せっかくなら、扇子をひとつ、客と自分の間にを置くことで客席と演者のあいだに結界を張る、ということをもっと丁寧に描写したほうがいいのではないでしょうか。
ただし、この情景は、落語会にいきなれた人にとっては、よく落語のまくらで聞く話なので、発想としての新しさはあまり感じませんでした。
D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
ネクタイを結ぶ、という動作の主体はだれなのでしょうか。
堅固な梱包になりなさい、と語りかけている主体はだれなのでしょうか。
一字明けで、主体の転換を示している、という読解をしたいところですが、このねじれ感が微妙に気になりました。
ネクタイを男性の首に結んであげながら、手にもっているネクタイにむけて語りかけている女性、ととればいいのかな。
また、「梱包」という語の選択は適切かどうかも気になるところ。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
4句目の8音が気になります。
3句目の「みてもただ」が音数的にはまるので、余計に気になるのかもしれません。
「壊せない夢」とはなんなのか。「(自分自身の)夢を壊したい」という衝動とは何なのか。いろいろ謎が残ります。
殴る、という動詞のもつ強度と、跡がつくだけ、という言葉の強度がつりあっているかどうかも気になりました。
**********
これは個人的な要望なのだけれど、ショージサキさんには、もっともっと主体が立ち上がる、具体的な歌をつくってほしい気がします。
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
結び目がきついのはマフラーである、と想像して読んでみました。マフラー(あるいは別のもの)という具体を描かないことによって、作者の心情的なことも託しているのかもしれません。
バスを待つあいだにすこし君を忘れる、というのは、失恋後なのか、恋の渦中なのか、読みがゆれました。
「あいだに」の「に」が、妙に気になったのですが、なぜだろう?
音数あわせのような印象を受けたのかもしれません。「あいだは」だと、バスを待つあいだだけは、という限定感が出るような気がします。(暖かいバスに乗り込んだら、また思い出す、という感じ。ただし、こちらのほうがいい、といっているわけではありません。)
**********
真冬自体の空気感の「結び目」という読解にはうなりました。ほほう。
靴紐がきゅっとなる、というのにも。歌会の醍醐味は、ほかのひとがどうぞ読んだか、を聞けるところなので、自分と違う読みがでてくるとわくわくします。
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
「四億」が、作者の表現の肝だと思うのですが、なにを四億といっているのかがわかりませんでした。
「四億といえば○○」という共通理解が、もしかしたらわたしの知らないところであるのかもしれない、と思いつつ……。
年末ジャンボ宝くじの当選金額の四億円のことでしょうか?
もし、作者の意図がそこにあったとした場合、この表現でいいのかどうか。
でも、四億円をすべて、いっぺんに、てのひらで重さをはかるのは物理的に不可能ですよね……。
**********
おおおー。
避妊具でしたか。
ただ、その意味で読むとやはり「眠りこけて」が気になるかなぁ。
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
作者がなにかを質問し、相手がイエス、と答えるまでの場面と読みました。
あわい相聞歌の印象を優先するのであれば、愛の告白の場面でしょうか。
「あなたの首の結論は」という表現は、ちょっと不穏で、何がこれから起こるのか期待させられるのですが、読点で縦とつなぐ歌の形には疑問を感じました。
<首を縦にふる>という紋切り型の表現を、詩に落とし込む手段としてこの形がベストかどうか。
そもそも紋切り型の表現を基にして、ここから拡大解釈を要請される読者は、つまらないのではないかと思います。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
5/8/5/8/7。この内容であれば、ぜひ31音におさめる努力をしてほしいと思いました。字余りに、必然性が感じられなかったのです。
<一読してすっと読者にわかる短歌>を、作者がよしとする場合、5/7/5/7/7の韻律、31音の音楽性に対して、より誠実になるべきだとわたしは思っています。
立ち読みしたものとして想定されているのは、少女マンガなのか、恋愛小説なのか。
この歌の「ような」という直喩は、下の句に対して、あまり機能していないように思われます。
歌意としては、【わたし(女性)は、少女マンガの結末を立ち読みしてからそのマンガを買うように、あなた(男性)のもとの恋人(女性)と友達になります】と読んだのですが……。
**********
歌会でも、ユーストリームをごらんになった方のツイッターでも、
意外に読みが割れていましたね。
たしかに、主体が男性でも読めるなぁ。
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
「食品サンプルに触れる指先」をもっている他者に対して、「ネクタイの結び方など知らなくて良い」といっている作者、として読みました
ネクタイの結び方を知らない=社会人としての常識やふるまい、マナーなどをまだ身につけていない若い男性へのメッセージ、として理解したのですがそこに対応するものとして「食品サンプルに触れる指先」は機能しているかどうか。
初句二句を、句またがり16音にさせるだけの必然性がこの「食品サンプルに触れる指先」にあるのかどうかが疑問でした。
**********
なるほど、子どもへ呼びかけている歌か~。
でも「触れる」が子どもっぽくない気がする~。
★K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
クリスマスツリーの下におかれた、きらびやかなたくさんのクリスマスプレゼント。
子供たちによって、ほとんどのプレゼントが開かれたのに、最後にひとつだけ、だれにも開かれることのないプレゼントがぽつんと残っている。
情景を思い浮かべるための描写に過不足がない。なぜ、そのプレゼントは開かれないのだろう、と、一首の背景を想像したくなる。よい歌だと思いました。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
素直な発想の歌。一字明けが機能している印象。
「気持ちも」の「も」は、ほかにも並列であげられるものの存在を感じさせるが、それはなんでしょう。
なぜ気持ちを固結びしてたのか、なぜ、それがほどかれたのか、そこの部分を読者としては読みたい気がしました。
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
消えゆく朝に、という言いさしに疑問が残る。
消えゆく朝に、いったいなにが起こったのか。読者は宙ぶらりんのままに放りだされたように感じる。
この宙ぶらりんさ自体の提示が、作者の意図なのかなぁ。
★N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
あわく相聞が香る。中指というディテールの提示がちょっと魅力的。昨日の言葉を、ゆうべの言葉、にすると、より相聞歌になるような気もする。力のある作者だと思うので、体言止めでない方法をさぐってほしい。
★O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
澄んだ冬の夜空をふたりでながめている恋人たち。よく見える星を適当につなげて、あたらしい星座をなづけ、
それにまつわる物語を語る、ロマンチックな女の子像が浮かびます。
君がつくる神話には、作者(ぼく)も含まれている、というようなあまやかな恋の一シーン。
一読してわかりやすいという短歌ではないが、(わかりやすくするためには、夜空、星空という語を提示をすればいいことを作者は認識しているが、あえてここではしていないと思われる)、それが詩につながっている。
読者の中で、言葉がどうふくらんでゆくか、言葉の持つ可能性に非常に意識的である作者だと思う。
**********
歌会では、歌われつくしている題材なのではないか、という意見が多かったような気がしますが、わたしは歌われつくしている題材だけど、いい歌だと思ったのでした。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
「結語あざやか」、といいきられると、作者の中で場面が完結してしまうので、読者のなかでふくらんでいくものがないように思います。
「結語」という題詠の処理はいいと思いました。
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
5/7/6/8/7という音数のせいで、もたつく印象。
「終電をのがしてしまった。わたしはこれから、君のまえで髪をほどくのだろう」という、
未来への期待感を読者としては読みたい気がするのですが……。
この一首のなかで、時間が動いてゆかない印象を受けるのはなぜでしょうか。
**********
歌会では、終電に乗ったのか、乗らなかったのか、で読みがゆれた印象。
わたしは乗らなかった読みですっと入っていけたんだけど。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
作者が立ち上げたかったポエジーは「東京たち」なのだろうと思うのですが、これが効いているかどうか。
「手をふったようにこすった」という表現のおもしろさが、「東京たち」で相殺されている印象をうけました。
「東京たち」の複数性と、「こすった結露」の(まとまった形になった)単数性が、読者のなかで、それこそ「ゆれて」しまうのかもしれません。
**********
「結露こすったら、窓はきれいになるよね」という指摘にほほう、と思いました。
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
2句目の8音、1字あけがあいまって、リズムに乗れない。情景の中に、他者がいるようでいないようで、読者としては居心地が悪かったです。
「バカにもなりきれぬまま」という表現が説明的なために「バカになりきった場合はどうなるというのだろう」という、詩でなく理を、読者に要請してしまうのかもしれません。
★T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
「しらたきをわざわざ結ぶ」という発見がとてもおもしろいのに……。
おそろしい、といわずに、この女のおそろしさを出さないともったいない。もっともっとこわい短歌になったはずなのに、もったいない。
**********
「わたし、しらたきを結ぶよ~」と二次会でおっしゃっていた高橋たまきさん。ほかにもツイッターで「結びますよ」とおっしゃっていた方もいらしたような気がします。
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
一首の流れが説明的。発想としてはありがち。「ふいに」がここで適切な言葉かどうか。
題詠の処理がイージー。
締切をやぶっている点も、マイナスポイントです。良い子は絶対真似しないように。
**********
山階さんには、「リボン結び」に託した部分を読み解いていただいた印象。高橋さんの読みには、「ほほう」という気づきがありました。ありがとうございました。
「ふいに」に関しては、田中ましろさんから突かれました。自分で「ここ弱いよな」と思っているところは必ず突かれるのが歌会の法則なのねー。
全首にいただきました。
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今回は、事前に21首分の評のメモをつくりました。
****のあとは、歌会の後で思ったこと。★が本多の5首選です。
★A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
「結」の題詠で、髪結いをもってきたところはお手柄。
置屋、寅の刻、という古めかしい語と、マツコという固有名詞はちょっと時代がそぐわない気がします。
上の句、下の句の両方が体言止めの場合、短歌としては、ぶつぶつした感じを与えてしまいます。
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歌会で音読したときの、音の響きのよさが快感でした。
(黙読で、5首選をしたときには気づかなかったポイントでした。)
「寅の刻」(午前4時ごろ)は、置屋で髪結いが笑いころげるには時間が変、という指摘がありましたが、わたしは、これから歌舞伎をみにいく芸者が、おしゃ れをしている場面だったらありうるんじゃないかなぁ、と思いました。(電気のない江戸時代の歌舞伎はかなり早朝から始まったはずなので。)
マツコがマツコ・デラックスを踏まえているのでは、という指摘にはおおお、と。
(家にテレビがないので、テレビネタだとよくわからないのです……。)
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
香り/降り/そそぐという動詞の連続が気になります。
コーヒーが香って、なおかつコーヒーが降りそそぐ、というように読めてしまいます。
作者はいま、室内にいて、目の前にコーヒーがあり、窓外には、雪が降っている、という景として読みましたが……。
下の句の「雪の結晶天使の砂糖」というたたみかけは、体言止めの連続なので、とてもぶつぶつした感じ。
雪の結晶というものは、天使の使う砂糖のようなものだよ、ということが作者のいいたいことなのであれば、
初句の「ほろ苦い」ははぶいて下の句の世界をゆったり歌ったほうがいいように思います。
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あおいさんは筆名のつけ方もロマンチックで、ロマンチックな作風なんですよね。
ロマンチックな路線をきわめるのであれば、使い古されたロマンチックな題材や、ロマンチックな表現をどれだけ捨てられるかがポイントだと、個人的には思っています。作者だけがロマンチックになっていると、読者はロマンチックになれないのです。
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
「結」の題詠で「結界」はお見事。
落語家が舞台上にあがったところの描写として読みました。
ただ、その場合、「ひざまずき」という動詞は誤用ではないでしょうか。
「にっこり笑って」という表現も、ややありきたり。8音でもたつくのももったいないと思います。
「笑う」に「にっこり」はあらかじめ含まれていると、私は思います。
せっかくなら、扇子をひとつ、客と自分の間にを置くことで客席と演者のあいだに結界を張る、ということをもっと丁寧に描写したほうがいいのではないでしょうか。
ただし、この情景は、落語会にいきなれた人にとっては、よく落語のまくらで聞く話なので、発想としての新しさはあまり感じませんでした。
D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
ネクタイを結ぶ、という動作の主体はだれなのでしょうか。
堅固な梱包になりなさい、と語りかけている主体はだれなのでしょうか。
一字明けで、主体の転換を示している、という読解をしたいところですが、このねじれ感が微妙に気になりました。
ネクタイを男性の首に結んであげながら、手にもっているネクタイにむけて語りかけている女性、ととればいいのかな。
また、「梱包」という語の選択は適切かどうかも気になるところ。
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
4句目の8音が気になります。
3句目の「みてもただ」が音数的にはまるので、余計に気になるのかもしれません。
「壊せない夢」とはなんなのか。「(自分自身の)夢を壊したい」という衝動とは何なのか。いろいろ謎が残ります。
殴る、という動詞のもつ強度と、跡がつくだけ、という言葉の強度がつりあっているかどうかも気になりました。
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これは個人的な要望なのだけれど、ショージサキさんには、もっともっと主体が立ち上がる、具体的な歌をつくってほしい気がします。
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
結び目がきついのはマフラーである、と想像して読んでみました。マフラー(あるいは別のもの)という具体を描かないことによって、作者の心情的なことも託しているのかもしれません。
バスを待つあいだにすこし君を忘れる、というのは、失恋後なのか、恋の渦中なのか、読みがゆれました。
「あいだに」の「に」が、妙に気になったのですが、なぜだろう?
音数あわせのような印象を受けたのかもしれません。「あいだは」だと、バスを待つあいだだけは、という限定感が出るような気がします。(暖かいバスに乗り込んだら、また思い出す、という感じ。ただし、こちらのほうがいい、といっているわけではありません。)
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真冬自体の空気感の「結び目」という読解にはうなりました。ほほう。
靴紐がきゅっとなる、というのにも。歌会の醍醐味は、ほかのひとがどうぞ読んだか、を聞けるところなので、自分と違う読みがでてくるとわくわくします。
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
「四億」が、作者の表現の肝だと思うのですが、なにを四億といっているのかがわかりませんでした。
「四億といえば○○」という共通理解が、もしかしたらわたしの知らないところであるのかもしれない、と思いつつ……。
年末ジャンボ宝くじの当選金額の四億円のことでしょうか?
もし、作者の意図がそこにあったとした場合、この表現でいいのかどうか。
でも、四億円をすべて、いっぺんに、てのひらで重さをはかるのは物理的に不可能ですよね……。
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おおおー。
避妊具でしたか。
ただ、その意味で読むとやはり「眠りこけて」が気になるかなぁ。
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
作者がなにかを質問し、相手がイエス、と答えるまでの場面と読みました。
あわい相聞歌の印象を優先するのであれば、愛の告白の場面でしょうか。
「あなたの首の結論は」という表現は、ちょっと不穏で、何がこれから起こるのか期待させられるのですが、読点で縦とつなぐ歌の形には疑問を感じました。
<首を縦にふる>という紋切り型の表現を、詩に落とし込む手段としてこの形がベストかどうか。
そもそも紋切り型の表現を基にして、ここから拡大解釈を要請される読者は、つまらないのではないかと思います。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
5/8/5/8/7。この内容であれば、ぜひ31音におさめる努力をしてほしいと思いました。字余りに、必然性が感じられなかったのです。
<一読してすっと読者にわかる短歌>を、作者がよしとする場合、5/7/5/7/7の韻律、31音の音楽性に対して、より誠実になるべきだとわたしは思っています。
立ち読みしたものとして想定されているのは、少女マンガなのか、恋愛小説なのか。
この歌の「ような」という直喩は、下の句に対して、あまり機能していないように思われます。
歌意としては、【わたし(女性)は、少女マンガの結末を立ち読みしてからそのマンガを買うように、あなた(男性)のもとの恋人(女性)と友達になります】と読んだのですが……。
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歌会でも、ユーストリームをごらんになった方のツイッターでも、
意外に読みが割れていましたね。
たしかに、主体が男性でも読めるなぁ。
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
「食品サンプルに触れる指先」をもっている他者に対して、「ネクタイの結び方など知らなくて良い」といっている作者、として読みました
ネクタイの結び方を知らない=社会人としての常識やふるまい、マナーなどをまだ身につけていない若い男性へのメッセージ、として理解したのですがそこに対応するものとして「食品サンプルに触れる指先」は機能しているかどうか。
初句二句を、句またがり16音にさせるだけの必然性がこの「食品サンプルに触れる指先」にあるのかどうかが疑問でした。
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なるほど、子どもへ呼びかけている歌か~。
でも「触れる」が子どもっぽくない気がする~。
★K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
クリスマスツリーの下におかれた、きらびやかなたくさんのクリスマスプレゼント。
子供たちによって、ほとんどのプレゼントが開かれたのに、最後にひとつだけ、だれにも開かれることのないプレゼントがぽつんと残っている。
情景を思い浮かべるための描写に過不足がない。なぜ、そのプレゼントは開かれないのだろう、と、一首の背景を想像したくなる。よい歌だと思いました。
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
素直な発想の歌。一字明けが機能している印象。
「気持ちも」の「も」は、ほかにも並列であげられるものの存在を感じさせるが、それはなんでしょう。
なぜ気持ちを固結びしてたのか、なぜ、それがほどかれたのか、そこの部分を読者としては読みたい気がしました。
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
消えゆく朝に、という言いさしに疑問が残る。
消えゆく朝に、いったいなにが起こったのか。読者は宙ぶらりんのままに放りだされたように感じる。
この宙ぶらりんさ自体の提示が、作者の意図なのかなぁ。
★N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
あわく相聞が香る。中指というディテールの提示がちょっと魅力的。昨日の言葉を、ゆうべの言葉、にすると、より相聞歌になるような気もする。力のある作者だと思うので、体言止めでない方法をさぐってほしい。
★O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
澄んだ冬の夜空をふたりでながめている恋人たち。よく見える星を適当につなげて、あたらしい星座をなづけ、
それにまつわる物語を語る、ロマンチックな女の子像が浮かびます。
君がつくる神話には、作者(ぼく)も含まれている、というようなあまやかな恋の一シーン。
一読してわかりやすいという短歌ではないが、(わかりやすくするためには、夜空、星空という語を提示をすればいいことを作者は認識しているが、あえてここではしていないと思われる)、それが詩につながっている。
読者の中で、言葉がどうふくらんでゆくか、言葉の持つ可能性に非常に意識的である作者だと思う。
**********
歌会では、歌われつくしている題材なのではないか、という意見が多かったような気がしますが、わたしは歌われつくしている題材だけど、いい歌だと思ったのでした。
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
「結語あざやか」、といいきられると、作者の中で場面が完結してしまうので、読者のなかでふくらんでいくものがないように思います。
「結語」という題詠の処理はいいと思いました。
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
5/7/6/8/7という音数のせいで、もたつく印象。
「終電をのがしてしまった。わたしはこれから、君のまえで髪をほどくのだろう」という、
未来への期待感を読者としては読みたい気がするのですが……。
この一首のなかで、時間が動いてゆかない印象を受けるのはなぜでしょうか。
**********
歌会では、終電に乗ったのか、乗らなかったのか、で読みがゆれた印象。
わたしは乗らなかった読みですっと入っていけたんだけど。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
作者が立ち上げたかったポエジーは「東京たち」なのだろうと思うのですが、これが効いているかどうか。
「手をふったようにこすった」という表現のおもしろさが、「東京たち」で相殺されている印象をうけました。
「東京たち」の複数性と、「こすった結露」の(まとまった形になった)単数性が、読者のなかで、それこそ「ゆれて」しまうのかもしれません。
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「結露こすったら、窓はきれいになるよね」という指摘にほほう、と思いました。
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
2句目の8音、1字あけがあいまって、リズムに乗れない。情景の中に、他者がいるようでいないようで、読者としては居心地が悪かったです。
「バカにもなりきれぬまま」という表現が説明的なために「バカになりきった場合はどうなるというのだろう」という、詩でなく理を、読者に要請してしまうのかもしれません。
★T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
「しらたきをわざわざ結ぶ」という発見がとてもおもしろいのに……。
おそろしい、といわずに、この女のおそろしさを出さないともったいない。もっともっとこわい短歌になったはずなのに、もったいない。
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「わたし、しらたきを結ぶよ~」と二次会でおっしゃっていた高橋たまきさん。ほかにもツイッターで「結びますよ」とおっしゃっていた方もいらしたような気がします。
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
一首の流れが説明的。発想としてはありがち。「ふいに」がここで適切な言葉かどうか。
題詠の処理がイージー。
締切をやぶっている点も、マイナスポイントです。良い子は絶対真似しないように。
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山階さんには、「リボン結び」に託した部分を読み解いていただいた印象。高橋さんの読みには、「ほほう」という気づきがありました。ありがとうございました。
「ふいに」に関しては、田中ましろさんから突かれました。自分で「ここ弱いよな」と思っているところは必ず突かれるのが歌会の法則なのねー。
第4回空き地歌会(本編)沼尻つた子さんの評
歌会前にいただいた沼尻つた子さんの評です。
ご自身が選歌された中でも気になった3首について。
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I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
この歌、佐々木あららさんの
「つまんない号は買わない月もある雑誌のように付き合えたなら」
と似てますよね。読書と男女交際の直喩だけではなく、根本が。
かんたん短歌、マスノ短歌のエッセンスが好きな作者なのでしょう。
だけど、あらら作品は超えられない。
あらら作品には余韻と哀愁があるけど、Iの歌は状況を全部説明して終わり。
見立てのおもしろさ、一読しての「なるほど」から先に行けていない。
このあたり「かんたん短歌フォロワー」の超えるべき壁があると思います。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
三首もあった結露のなかでいちばんこなれている。
こなれすぎてて気に食わない(選歌したけど笑)
手をふって別れを示唆しているのだから、おそらく都民ではない人で
「東京たち」は並んだビルなど、首都の象徴でしょう。
列車やホテルの窓からみた光景かもしれません。
でもよくみると矛盾にみちた歌です。
結露をこすれば窓の視界はある程度クリアになるので、ゆれるという表現はどうなのか?
(電車ならゆれますが、電車なら揺れているのは乗客の方)
また「こすった結露」だと拭いとられた水滴そのものをさすのでは。
上手い雰囲気にだまされそうになりますが、やはり納得いかないです。
選歌したけど(二度目)
T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
しらたき、結んであるのが普通に市販されていますね。
それを知っていながら敢えて言っているのか、
それとも本気で彼女が結んでいると思っているのか。
どっちでもいいんですが(いいんかい)
おそろしい女のわりに、お料理は美味しそうです。ある意味、のろけ歌。
暮らしていますの結句は、やはりかんたん短歌っぽい。
「もう恋ができないようにした猫と暮らしています 元気でいます」 (英田柚有子)
印象的な結句が先行作と被ってしまうのも
口語で短歌をつくっていれば、必ずぶつかる壁だと思います。
ご自身が選歌された中でも気になった3首について。
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I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
この歌、佐々木あららさんの
「つまんない号は買わない月もある雑誌のように付き合えたなら」
と似てますよね。読書と男女交際の直喩だけではなく、根本が。
かんたん短歌、マスノ短歌のエッセンスが好きな作者なのでしょう。
だけど、あらら作品は超えられない。
あらら作品には余韻と哀愁があるけど、Iの歌は状況を全部説明して終わり。
見立てのおもしろさ、一読しての「なるほど」から先に行けていない。
このあたり「かんたん短歌フォロワー」の超えるべき壁があると思います。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
三首もあった結露のなかでいちばんこなれている。
こなれすぎてて気に食わない(選歌したけど笑)
手をふって別れを示唆しているのだから、おそらく都民ではない人で
「東京たち」は並んだビルなど、首都の象徴でしょう。
列車やホテルの窓からみた光景かもしれません。
でもよくみると矛盾にみちた歌です。
結露をこすれば窓の視界はある程度クリアになるので、ゆれるという表現はどうなのか?
(電車ならゆれますが、電車なら揺れているのは乗客の方)
また「こすった結露」だと拭いとられた水滴そのものをさすのでは。
上手い雰囲気にだまされそうになりますが、やはり納得いかないです。
選歌したけど(二度目)
T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
しらたき、結んであるのが普通に市販されていますね。
それを知っていながら敢えて言っているのか、
それとも本気で彼女が結んでいると思っているのか。
どっちでもいいんですが(いいんかい)
おそろしい女のわりに、お料理は美味しそうです。ある意味、のろけ歌。
暮らしていますの結句は、やはりかんたん短歌っぽい。
「もう恋ができないようにした猫と暮らしています 元気でいます」 (英田柚有子)
印象的な結句が先行作と被ってしまうのも
口語で短歌をつくっていれば、必ずぶつかる壁だと思います。
第4回空き地歌会(本編)空き地王 龍翔さんの評
歌会前にいただいた龍翔さんの評です。
ご自身が選歌された5首についていただきました。
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F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
「結び目きつく」とは、靴紐か何かのことでしょうか。
或いは、真冬日それ自体の、きりりと引き締まるような寒さ、
冬の透き通るような空気感を、比喩として表現しているのでしょうか。
少し分かりにくい点はあるのですが、
恋愛における「終わりと始まりの瞬間」、
そして何かしらの「決意」が、とても美しく表現されている御歌だと思いました。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
上の句の比喩がとても面白いです。
「結末」というのは、単に「別れ」を表しているような気もしますが、
わざわざ買ってまで「本筋」を知りたくなるくらいですから、
その「結末」の内容はとんでもないものなのかもしれません。
二句目と四句目がともに八音なので、
少しスムーズでない感じがしたのが残念です。
主体が男性なのか、女性なのかによって、
広がる想像に違いが生まれる、面白い御歌だと思いました。
K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
今回の歌会の中で、一番好きな御歌です。
本当は五点すべてを捧げたいくらい。好きです。大好きです。
「クリスマスツリーの下」という場所を描写することで、
「蝶結び」というだけで、それが「プレゼント」のことだと分からせる。
そして、プレゼントを差し出し、開ける行為を、
「蝶」にかけて「飛びたつ」と表現するだなんて。嗚呼。なんて憎いお人。
こんなに技巧派なのにも関わらず、それはとてもさりげなくて、
切ないストーリーがじんわりと優しくスムーズに広がっていく。
とても素敵な御歌だと思います。
おめでとうございます。私の勝手な賞を差し上げます。
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
「任意の光点」は星のこと、「神話」は星座のことでしょうか。
星座にはギリシャ神話の登場人物が多く登場しますね。
自分で好きな星を結んで、星座を作るだなんて。
なんてロマンチックなんでしょう。と言いかけたところで、
実際に「ほら見て。あれが僕の愛しい恋人座だよ。」とか言われる想像をしたのですが、
冬空の下で星を見るどころか、吹雪になりそうなのでやめておきました。
ロマンは詩の世界だからこそ生きる、ということでしょうか。綺麗な御歌だと思います。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
「こすった結露」。「結露をこする」という表現にあまり馴染みが無いので、
少し違和感を感じたのですが、イメージとしてはとてもよく分かります。
結露のひとつひとつにうつる東京の風景。
それがふるふると揺れては、流れ落ちて行く。
とても詩的で、不安げで、切なくて。でもどこかやさしくて、あたたかくて。
「振る」「擦る」「揺れる」と、ひらがなにしたことでその印象が更に増します。
とても不思議な印象を受けた御歌でした。
ご自身が選歌された5首についていただきました。
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F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
「結び目きつく」とは、靴紐か何かのことでしょうか。
或いは、真冬日それ自体の、きりりと引き締まるような寒さ、
冬の透き通るような空気感を、比喩として表現しているのでしょうか。
少し分かりにくい点はあるのですが、
恋愛における「終わりと始まりの瞬間」、
そして何かしらの「決意」が、とても美しく表現されている御歌だと思いました。
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
上の句の比喩がとても面白いです。
「結末」というのは、単に「別れ」を表しているような気もしますが、
わざわざ買ってまで「本筋」を知りたくなるくらいですから、
その「結末」の内容はとんでもないものなのかもしれません。
二句目と四句目がともに八音なので、
少しスムーズでない感じがしたのが残念です。
主体が男性なのか、女性なのかによって、
広がる想像に違いが生まれる、面白い御歌だと思いました。
K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
今回の歌会の中で、一番好きな御歌です。
本当は五点すべてを捧げたいくらい。好きです。大好きです。
「クリスマスツリーの下」という場所を描写することで、
「蝶結び」というだけで、それが「プレゼント」のことだと分からせる。
そして、プレゼントを差し出し、開ける行為を、
「蝶」にかけて「飛びたつ」と表現するだなんて。嗚呼。なんて憎いお人。
こんなに技巧派なのにも関わらず、それはとてもさりげなくて、
切ないストーリーがじんわりと優しくスムーズに広がっていく。
とても素敵な御歌だと思います。
おめでとうございます。私の勝手な賞を差し上げます。
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
「任意の光点」は星のこと、「神話」は星座のことでしょうか。
星座にはギリシャ神話の登場人物が多く登場しますね。
自分で好きな星を結んで、星座を作るだなんて。
なんてロマンチックなんでしょう。と言いかけたところで、
実際に「ほら見て。あれが僕の愛しい恋人座だよ。」とか言われる想像をしたのですが、
冬空の下で星を見るどころか、吹雪になりそうなのでやめておきました。
ロマンは詩の世界だからこそ生きる、ということでしょうか。綺麗な御歌だと思います。
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
「こすった結露」。「結露をこする」という表現にあまり馴染みが無いので、
少し違和感を感じたのですが、イメージとしてはとてもよく分かります。
結露のひとつひとつにうつる東京の風景。
それがふるふると揺れては、流れ落ちて行く。
とても詩的で、不安げで、切なくて。でもどこかやさしくて、あたたかくて。
「振る」「擦る」「揺れる」と、ひらがなにしたことでその印象が更に増します。
とても不思議な印象を受けた御歌でした。
第4回空き地歌会「結」選歌結果(本編)
( )内が作者名です。
《選》のところにあるのが、その歌を選んだ人のお名前です。
※敬称略
第4回空き地歌会 空き地王は、Tの歌の龍翔さんです!!
A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
《選》本多響乃 飯田彩乃 野比益多
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
《選》麦太朗
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
《選》高橋たまき 麦太朗
D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
《選》住友秀夫 たえなかすず 田中ましろ 沼尻つた子 飯田彩乃
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
《選》あおい月影 野比益多
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
《選》あおい月影 篠原謙斗 ショージサキ 高橋たまき 山階基 浪江まき子
沼尻つた子 龍翔 野比益多
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
《選》倉野いち 田中ましろ 晴見奏司 浪江まき子
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
《選》たえなかすず 土屋智弘 浪江まき子
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
《選》篠原謙斗 高橋たまき 田中ましろ 土屋智弘 結城直 龍翔
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
《選》倉野いち 田中ましろ 晴見奏司 結城直 魚住蓮奈
K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
《選》あおい月影 住友秀夫 田中ましろ 山階基 龍翔 本多響乃 天国ななお
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
《選》麦太朗
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
《選》ショージサキ 土屋智弘
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
《選》篠原謙斗 住友秀夫 沼尻つた子 本多響乃
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
《選》倉野いち 住友秀夫 たえなかすず 土屋智弘 晴見奏司
魚住蓮奈 浪江まき子 龍翔 本多響乃
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
《選》魚住蓮奈 天国ななお 野比益多
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
《選》あおい月影 倉野いち 篠原謙斗 住友秀夫 晴見奏司 山階基 結城直
魚住蓮奈 天国ななお 飯田彩乃 野比益多
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
《選》倉野いち ショージサキ たえなかすず 結城直 魚住蓮奈 沼尻つた子
龍翔 天国ななお 飯田彩乃
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
《選》晴見奏司 結城直
T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
《選》あおい月影 篠原謙斗 ショージサキ たえなかすず 高橋たまき
麦太朗 山階基 浪江まき子 沼尻つた子 本多響乃 天国ななお 飯田彩乃
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
《選》ショージサキ 高橋たまき 土屋智弘 麦太朗 山階基
《選》のところにあるのが、その歌を選んだ人のお名前です。
※敬称略
第4回空き地歌会 空き地王は、Tの歌の龍翔さんです!!
A 音羽町置屋ときわや寅の刻 笑いころげる髪結いマツコ(麦太朗)
《選》本多響乃 飯田彩乃 野比益多
B ほろ苦いコーヒー香り降りそそぐ雪の結晶天使の砂糖(あおい月影)
《選》麦太朗
C その男にっこり笑ってひざまずき扇子ひとつで結界を張る(土屋智弘)
《選》高橋たまき 麦太朗
D ネクタイを結ぶ あなたのくびすじの堅固な梱包になりなさい(山階基)
《選》住友秀夫 たえなかすず 田中ましろ 沼尻つた子 飯田彩乃
E 結露した窓を殴ってみてもただ壊せない夢に跡がつくだけ(ショージサキ)
《選》あおい月影 野比益多
F 真冬日の結び目きつくバスを待つあいだにすこし君を忘れる(田中ましろ)
《選》あおい月影 篠原謙斗 ショージサキ 高橋たまき 山階基 浪江まき子
沼尻つた子 龍翔 野比益多
G てのひらで重さをはかる 結ばれたものに四億は眠りこけて(魚住蓮奈)
《選》倉野いち 田中ましろ 晴見奏司 浪江まき子
H 沈黙の時間を鼓動が数えてたあなたの首の結論は、縦(住友秀夫)
《選》たえなかすず 土屋智弘 浪江まき子
I 結末を立ち読みしてから買うように君の元カノと友達になる(倉野いち)
《選》篠原謙斗 高橋たまき 田中ましろ 土屋智弘 結城直 龍翔
J 食品サンプルに触れる指先ネクタイの結び方など知らなくて良い(浪江まき子)
《選》倉野いち 田中ましろ 晴見奏司 結城直 魚住蓮奈
K クリスマスツリーの下にひとつだけ飛びたつことのない蝶結び(野比益多)
《選》あおい月影 住友秀夫 田中ましろ 山階基 龍翔 本多響乃 天国ななお
L 固結びしてた気持ちもほどかれて話したいこと止まらない 好き(天国ななお)
《選》麦太朗
M 靴ひもから解き放たれた幾千のちょうちょ結びが消えゆく朝に(飯田彩乃)
《選》ショージサキ 土屋智弘
N 結露する窓に中指滑らせて滴ってゆく昨日の言葉(晴見奏司)
《選》篠原謙斗 住友秀夫 沼尻つた子 本多響乃
O 冬空に散った任意の光点を結んで君が神話をつくる(結城直)
《選》倉野いち 住友秀夫 たえなかすず 土屋智弘 晴見奏司
魚住蓮奈 浪江まき子 龍翔 本多響乃
P もうすでに彼女と呼ばぬひとからの夜のメールの結語あざやか(たえなかすず)
《選》魚住蓮奈 天国ななお 野比益多
Q まだ髪を結んだ私しか知らない君と終電の灯りをあびる(沼尻つた子)
《選》あおい月影 倉野いち 篠原謙斗 住友秀夫 晴見奏司 山階基 結城直
魚住蓮奈 天国ななお 飯田彩乃 野比益多
R 手をふったようにこすった結露には東京たちがゆれていました(高橋たまき)
《選》倉野いち ショージサキ たえなかすず 結城直 魚住蓮奈 沼尻つた子
龍翔 天国ななお 飯田彩乃
S 前もってほどくとわかっている紐を結ぶ バカにもなりきれぬまま(篠原謙斗)
《選》晴見奏司 結城直
T しらたきをわざわざ結ぶおそろしい女とともに暮らしています(龍翔)
《選》あおい月影 篠原謙斗 ショージサキ たえなかすず 高橋たまき
麦太朗 山階基 浪江まき子 沼尻つた子 本多響乃 天国ななお 飯田彩乃
U 結婚が決まりましたと告げられてリボン結びがふいにほどける(本多響乃)
《選》ショージサキ 高橋たまき 土屋智弘 麦太朗 山階基
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