2013年4月16日火曜日

第5回空き地歌会 嶋田さくらこさん全首評

嶋田さくらこさんの全首評です。

●嶋田さくらこさんが編集長をつとめてらっしゃる
短歌なZINE「うたつかい」、みなさまぜひぜひ。

《うたつかい次号は7月号の発行予定。
 自由詠 5首1作 テーマ詠「植物」〆切は2013年5月22日だそうです。 》

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------

A そよ風の裏切りにより花びらは着地するほかなかったんだよ
一見やわらかく(桜の)花が散る様子ですが、「花びら」は人間ととりました。誰かの「裏切り」により思わぬ結果に「着地」させられたというアイロニー。結句の語尾からは虚しい感じも。

B お隣のケンカを夜ごと聞かされる私の罪は何? 沈丁花
嘆きを訴える相手が「沈丁花」である理由を探しました。花は人の顔のようでもあるし、低木なのでそこに佇んでいる風情も。返事をしない、いい香りのする美しい女友達。独り暮らしを「私の罪」と読みました。「お隣」を疎みつつ羨望も。

C 折れさうな身体のお兄さんの手に仕事の都合といふ花言葉
「お兄さん」が茎が細くて長い花にたとえられていておもしろい。いわゆる現代の草食系イケメン風男子をイメージしました。口ではっきり断ることができないので「花言葉」で伝えようとしている。空気読めってことでしょうか。巧妙です。二番目に好きな作品。

D スギ花粉噴射スプレー目と鼻に ヒロ先輩に卒業祝い
わたしは花粉症ではないけど、イメージしすぎて読んだ瞬間からむずむずしました。「ヒロ先輩」はよほど嫌われていたのか、それともかわいさ余って憎さ百倍なのか。「ヒロ先輩」への興味をかきたてられました。が、あとはどういう意味がこめられていたのか、読みきれませんでした。

E 桜舞う恋を奏でる曲の音と香り残して君に届けと
年季の入った片想いを想像しました。一首の中にダンス、音楽、香り、と視覚・聴覚・嗅覚がつまっているんですね。少し盛り沢山すぎるように感じましたが、ゴージャスです。オペラのマエストロ風。「奏でる」「曲」「音」の3語が続くのは、短歌としては字数上もったいないように思いました。

F 営業が出払った午後事務員のまどろみのなか睡蓮ひらく
春の午後、人がいなくなった事務所で仏さまの世界(夢)に昇天(居眠り)してしまった事務員の安らかな顔を思い浮かべました。「まどろみ」の漢字表記からの「睡蓮」の流れ、決まったオチに導かれてしまうので短歌としては少し残念な気持ちになりました。

G 鮮やかな色響かせて咲き誇る好きという花降りそそぐ君
片想いの相手を盲目的に崇拝する恋のイメージ。失恋するのが怖いので、遠くから「君」を眺めるだけの、恋に夢をみている人物像が浮かびました。情景が美しいので、現実味のうすい浮遊感。「好き」という言葉ではない方がよいのではないかと思いました。

H (わたしの部屋のあなたの花が咲きました)わたしのあなたが告げた春
「わたし」と「あなた」と「花」がくるくる回り、迷子にさせらました。結句の音がかけているのはわざとですか?歌意はあまりよくわからないけれど、不思議な余韻があって好きな作品でした。

I 咲くことのない花ですとわたされた石をあなたは窓辺にかざる
3人の登場人物の関係に物語を感じます。「石」は望みのない希望、暖かい場所に置いても決して芽吹かない。無駄なことをしている「あなた」を見つめるのはなぜか。また、「あなた」は「かざる」とあるので、自戒の意味でしょうか。

J 花に降る雨の静けさきらきらといのちほどけてゆくさくらばな
桜の咲くようすを「いのちほどけてゆく」と表現されているのがすてきだと思いました。「きらきらと」という表現は、わたしの中では音がする言葉なので、「花に降る雨の静けさ」と矛盾が生じてしまいました。

K 守っても守りきれないものがある カーネーションがシーツに咲いた
初体験のシーンと読みましたが、主体が女の子だとすると、痛みの表現がなく客観的すぎるような。すごくクールな子なのか。もしかして男の人目線なのか。カーネーションの形状と赤さを出血に見立てるのはうまいと思いました。

L ひらひらとさくら花びら花筏めだかの子らはお遊戯やめた
最初、童謡のひと節のような、楽しい歌と感じました。後から、人間世界にあてはめて、桜の咲く時期は、みんな花見がメインで仕事もてにつかなくなるよね、みたいな寓意を勝手に感じました。

M 吹く風に枝垂れ桜はゆれておりリズムは淡い1/f
1/fがわからなかったのですが、webで調べたら「1/fゆらぎ」ですぐにヒットしました。家電や照明の売り文句なのですね。自分が一般的な認識のある言葉を知らないばかりに、この歌の大事なところを味わえなかったことがとても残念でした。

N さいたなら枯れてゆくだけ心咲さんさかなくていいこころなんかを
「さいたなら枯れてゆくだけ」がよく聞く歌謡曲のフレーズのようなので、「心咲さんさかなくていいこころなんかを」にこそ、この歌の肝心なことがこめられているのでは、と思いましたが、3句めがどう読むのかわからなくて、歌の中までたどり着けませんでした。

O ほろよいのお花畑で落ち合ってこのまま二人どこか消えたい
「ほろよいのお花畑」が、最初、脳内の妄想イメージの象徴なのかなと思ったのですが、タイムラインで、「お花畑」は「トイレ」の意味では、という牛さんのツイートを読んでから、この歌が一気に現実味を帯びて、いろいろ想像してしまいました。

P 口々に春うたうべく咲く花のひとつを選りて耳もとに挿す
「口々に春うたうべく」から、たくさんの小さい花が満開のイメージを受けました。桜、とは書かれてないのですが、桜のイメージ。いったん桜をイメージしてしまったので、桜の花の色の淡さから、花のうた声はちいさいので、耳元に挿したんだろうと思いました。何回も読んでいくうちに、透き通る音と色が湧いてくる世界観。

Q 花びらを涙でつけて待っている 遠くからでも気がつくように
ピエロをイメージしました。何を気付いてほしかったのか、もう少しヒントが欲しい気持ちになりましたが、読んだ人それぞれの胸に秘めたメッセージでよかったでしょうか。

R 桜たちおかえりなさい旅ならばかなたの春よいってらっしゃい
「桜たち」が「おかえりなさい」で、春がおかえりなさい、の意味で読んだので、「かなたの春よいってらっしゃい」の意味がとれずに、苦しんでしまいました。

S 薄桃の君がまっすぐ行けるよう道しきつめる花びらになる
卒業式のイメージをしました。「薄桃の君」を卒業生、「花びらになる」のは、在校生や先生たち。そして、ここでもまた、「花びら」は桜のイメージをしてしまったので、「薄桃の君」の「薄桃」はなにがふさわしいだろう、とぐるぐるしてしまいました。最終、花道は赤い絨毯に切り替えてイメージし直しましたが、なんとなくふに落ちない感じを残してしまいました。

T この岸がどちらがわでもかまわない空ににじんでゆくさくらばな
一番好きな歌。桜の白に近いピンクとよく晴れた春の空の薄いブルーの境界がなくなるように、自分の立っている場所があやふやになる感覚。「かまわない」と、願望を手放した後の心の自由。「岸」という表現から世の中や他人に流されることの葛藤への諦感も。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------

★作者名はこちらからご覧いただけます。



0 件のコメント:

コメントを投稿